第89話 ギット子爵家の終焉
「おお、リュー、無事であったか!」
「早かったな」
入ってきたのは確かにソフィ王女であった。ギットは一応
ソフィの顔を見て青くなったギットであったが、すぐに気を取り直して取り繕う。
「これはこれは、ソフィ王女ではないですか、わざわざ我が屋敷への訪問、光栄ですな」
「ギットよ、リュージーンは
「王女が冒険者などと、相変わらず奔放に生きていらっしゃるようで……私と気が合いそうですな」
「貴様と一緒にするでない。相変わらず、若い女を拐って悪事を行っておるようじゃが、今度は廃嫡追放では済まぬぞ?」
実はギット子爵には前科があった。屋敷に居る若いメイドを部屋に連れ込んでは嬲り、殺していたのだ。
はじめは平民の娘を街で拐わせていたのだが、それでは満足できなかったのか、ギットはそのうち公爵家の使用人を狙うようになったのだ。
公爵家に仕えているのは使用人と言えども貴族の家柄の者である。行方不明になる若いメイドが多くなった事で、実家の貴族家からの陳情が相次ぎ、調査が入り、事態が発覚した。
事件自体は公爵家の体面に関わるため闇に葬られたのであったが、子供を甘やかしていた公爵もさすがに庇いきれず、ギットは廃嫡となった。
ただ結局、公爵の温情で子爵の地位を与えて地方に領地を与えて追い出すだけで済まされてしまったのだった。(領地としてあてがわれた地域の民はさぞや迷惑した事であろう。)
「はて、何を言っているのか。若い頃は多少やんちゃもいたしましたが、今は立派に領主としての努めを果たしておりますぞ?」
「立派にのう……その代わり、隣の領地で悪事を働いておるわけか?」
「……王女と言えども、証拠もなしにくだらん濡れ衣を着せるのは止めて頂きましょうか」
「証拠はこの屋敷の地下室にあるぞ」
リューを睨みつけるギット子爵
一呼吸おいて、ギットはソフィに向き直って言った。
「……王女は、冒険者をされているのですかな?」
「そうじゃが、それがどうした?」
「今日ここに来ることは誰かに伝えましたか?」
「……ゴランには言ったと思うが」
「ゴラン?」
「ミムルの街の警備隊長だ」
「そんなのは握りつぶせるな……」
「では、姫が消えても、冒険の途中で行方不明になったと言う事で解決ですな!」
ギットが目配せをした瞬間、廊下から騎士達がなだれ込んできてソフィ達を取り囲んだ。
「フハハハハ姫にも地下室の女達の仲間入りをしてもらいましょうか。平民の女を甚振っても面白くない、そろそろまた、プライドの高い貴族の女を甚振りたいと思っておったところだ」
汚らしい排泄物でも見たように顔を
「できると思うのか?」
「これだけの人数相手にどうするつもりだ?」
ソフィ達は剣を抜いたがリューが手をあげて止めた。
「人数? どこにいる?」
その瞬間、周囲に居た騎士達の足元に魔法陣が浮かぶ。騎士達の姿は薄くなり、姿が消えていった。
リューが転移でどこかへ飛ばしてしまったのだ。(どこへ飛ばしたのかはリューしか知らない。)
「さすがリュー、大したものじゃ」
「これは……??? 馬鹿な、何が起きたのだ?!」
「捕らえよ!」
マリーとアリスが子爵に迫る。だがギット子爵も公爵家の血筋、強い魔力を持っている。瞬時に火球を放つギット。だが、マリーとアリスに向かって飛んだ火球はリューがすべて途中で“収納”してしまった。
直後、リューは子爵の横に転移すると、手枷を取り出して掛けた。リューが嵌められていた、魔力を封じる手枷である。壊さず取っておいてよかった、さっそく役に立ったのであった。
「敵に回すと怖いが、味方にすると恐ろしく頼りになるな…」
ギットはヘナヘナと膝をついて倒れていった。手枷に魔力を吸われ、身動きできなくなったようだ。それほど強力な魔道具だったのかと少し驚くリューであった。
* * * *
手枷に魔力を奪われヘロヘロになっているギットを乱暴に引っ立てながら、ソフィ達は地下室へと向かった。
牢の扉をリューが力任せに開けていく。リューの力が強すぎるのか、あるいは建物が老朽化しているのか、どの牢も簡単に扉が壊れて開いてしまう。
そして、奥にある問題の部屋へ入り、中の惨状を見て、声にならない悲鳴をあげるソフィ達。
ギットの悪事と言っても、女を拐って犯す程度に考えていたソフィ達であったが(それだって十分に極悪であるのだが)、人として許されないレベルであった事を理解した。
囚われている女達をマリー達が救助しはじめる。亜空間に収納してあったポーションを出してやりながら、リューはソフィに尋ねた。
「それで、この男はキチンと断罪されるのか?」
「もちろんじゃ、許される事はないじゃろう」
「だが、平民相手の犯罪の場合、貴族はそれほど重い罪に問われないとゴランも言っていたが? この男もそうなるんじゃないのか?」
「それは・・・」
「キチンと断罪されたとしても、せいぜいギロチンで処刑されて終了というところか」
「……それではダメか?」
「甚振られて殺されていった者たちは、そんな楽な死に方では恨みは晴れないだろうなぁ……」
ふと見ると、拘束から解き放たれた女の一人がギットを睨みつけていた。
「ではどうすればいいのじゃ……?」
「俺にいい考えがある、ここに居る女達に復讐してもらえばいいんじゃないか? 死んでしまった者はどうにもならないが、生きてる彼女達は直接復讐したいだろう」
そう言うとリューはギットを部屋の中央に引き摺っていき、天井から吊るされている鎖に手枷を繋いだ。
「幸い、ここにはコイツを甚振るための道具もたくさんあるしな」
リューは女達に向かって言った。
「好きにしていいぞ。だが、簡単に殺すなよ。できるだけ長く生き永らえさせて苦しめてやれ」
さらにポーションを取り出し大量に並べていくリュー。
「使っていいぞ、間違って死にかけたら、これで回復させてやってから、もう一度苦しめてやればいい」
その言葉を聞いて女達は凶悪な顔をし、それを見たギットはガタガタ震えて小便を漏らしていた。
部屋を出たリュー達。
後ろからギットの悲鳴が響くが、ギットが防音はしっかりと作っていたため、悲鳴が外に漏れる事はなかった。
リューは屋敷の中を歩き回り、残っていた騎士や使用人を次々と転移で消していく。
「消えた者達は、一体どこに飛ばされたのじゃ?」
「ダンジョンの最下層だよ。階層のボスモンスターを倒して転移魔法陣に辿り着けば、ダンジョンから脱出できるだろうが」
「最下層……ボスはヒュドラ」
「うわあ……無理だ……」
「ギットの悪事に加担してた騎士は当然として、知らずに仕えていた使用人も居るのじゃないの?」
「騎士も使用人も、確認してから処理してる。嘘をついているかどうかは目を見れば分かる」
リューは一言、ギット子爵の悪事を知っていたか質問するだけである。質問には、使用人たち全員が知らないと答えた。だが、リューはその時、神眼で心の中を読み、有罪か無罪か判定するのだ。絶対間違わない嘘発見器である。
最も末端の下働きの平民の使用人は、誰も知らなかったようなので、そのまま解放したが、屋敷で働いていた使用人(貴族)はほぼ全員黒であった。
最期に、中庭に来たリュー。
そこに何故か、空中からトッポ男爵が突然降ってきた。
トッポ男爵は、騎士がソフィ達を取り囲んだ段階でそっと部屋を抜け出し、逃げ出していたのだ。王女が来た時点でギットの負けを見抜いたのは良い判断であったが・・・
馬で逃亡していたトッポであったが、リューの神眼はそれも逃さなかった。
逃げ果せたと思っていたトッポ男爵は、リューの転移によって、馬上から中庭に転移されてしまったのである。
「逃げられると思ったか?」
「ひいぃ! だ、男爵であるぞ! 手をかけたらどうなるか……」
「王女に手を掛けて許されると思ったのか?」
「わ、私は何もしていません、すべてはギット子爵がやったこと!」
「女達の誘拐は知ってただろう? ギットが地下で何をしていたかも?」
「それは……いえ! 知りませんでした! 私は何も知らなかったのです! 本当です!!」
「嘘つきめ」
トッポの足元に魔法陣が浮かび、トッポは消えていったのだった。
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
今度は領主の命令?
騎士団はリューを連行したい
乞うご期待!
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