第88話 ギット子爵と相見えたリューとソフィ

普通に町の中の朝の出来事であったため、リューが貴族に連行された事はたくさんの目撃者が居た。


リューの事を心配した親切な住民が教会に事態を伝えてくれ、それを聞いたシスターはすぐに警備隊に向かいゴランに助けを求めたのである。


だが、貴族に逮捕された者を街の警備隊が救出する事は容易ではない。そこでゴランは冒険者ギルドに向かいソフィ達に事態を伝えてもらう事にしたのであった。王族であるソフィならば、おそらく貴族相手でもなんとかできる可能性がある。


ソフィ達は冒険者ギルドでリューを待っていた。リューがいつまで待ってもやってこないので心配していたところであった。事態を聞いて怒ったソフィは、即座にギット子爵の屋敷に向かう事にした。


従兄弟に当たるとは言え、王女にしてみれば格下もいいところの子爵である。ソフィが言えばリューを解放させる事はたやすいだろう。


もちろん、ギット子爵が若い女を誘拐していた黒幕であると言う話もリューから聞いている。あの評判の悪いギットである、またやったのかと言う思いしかない。事実であるなら、今度こそ、処罰するのは王族の務めであろう。




   *  *  *  *




手枷はされているものの、リューはトッポと同じ馬車で隣町まで運ばれる事となった。意外と良い待遇である。単純に、他に馬車を用意していなかっただけらしいが。道中、話しかけようとすると護衛の騎士に黙れと言われてしまうので、会話は特になかった。平民が貴族に気安く話し掛けてはいけないらしい。


ギット子爵の領地に入りしばらくすると、城壁で囲まれた街が見えてくる。馬車は門を素通りし、街の中央にあるギット子爵の屋敷に直行した。


馬車から降ろされたリューは、騎士に乱暴に引きずられるように応接室……ではなく地下牢へと案内された。


手枷は嵌めたまま牢に入れられ鍵を掛けられる。


もちろん、そのまま大人しく待っているつもりはない。まず、手枷を外してみる。転移が使えるのだから簡単な事である、手枷を手首とは違う場所に転移で移動させてしまえば済む。


手枷を自分の筋力で無理やり引きちぎれるか試してみたい気持ちもあったのだが、初めて見た魔道具だったので、ちょっともったいないなと思い直したのだった。手枷は直接亜空間収納の中に転移させた。


牢を出る前に、リューは神眼を使って周囲をサーチしてみる。


地下牢のある階には見張りは居ないようである。


自分が入れられた地下牢の周囲に他にも地下牢があるのが分かった。リューの他にも何人か捕らえられている者がもいるようである。


さらに、その奥に広い部屋があり、そこにも何人か人間が居る。牢も奥の部屋も全員女性である。拐ってきた女性達かもしれない。


牢から出る事にしたリュー。転移で出てもいいのだが、鉄格子を力づくで破壊できるか試してみたくなった。先程手枷は試せなかったので、こちらはやってみることにした。


だが、少し力を強く込めたら、牢の扉ごと外れてしまった。いくらリューの力でもこれは脆すぎる。扉の丁番部分と鍵の部分が弱くなっていたようだ。


牢を出たリューは奥の部屋を見に行ってみた。中に複数の人間の存在、他に、死体や、死にかけの人間と思われる存在があるのが神眼で分かったので、気になったのである。


ドアに手を掛けてみると鍵がかかっていたので、転移で中に入ってみたリュー。中には……悍ましい光景が広がっていた。


壁や台に拘束された全裸の女性達。


さらに、天井から吊り下げられている者も居る。


そして吊られている女性の中には、手足がない者も居た。

吊られている者は既に全員事切れているようであった。


どうやらこの屋敷の主は、女性を拷問して殺す事が趣味と言う事らしい。リューは女性達をそのままにし、一旦部屋の外にでた。


リューは女性たちにはもう少しだけ我慢して待っていてもらう事にした。救出は後で行えばいい、下手に今外に出して、騒ぎに巻き込まれても危険である。これからリューは一騒動起こす予定なのだから。


リューはさらに神眼で屋敷の中をサーチしていく。使用人、護衛の騎士達、そして、二階の奥の大きな部屋に、ギット子爵が居るのを確認した。リューはギット子爵に会ったことはないが、何度か心を読んだ人間の記憶にあるイメージを読み取っていたのですぐに分かった。


リューは単刀直入に、ギット子爵の部屋に転移する事にした。




   *  *  *  *




ギット子爵の部屋で報告をしているトッポ男爵


「子爵閣下、リュージーンを捕らえて参りました」


「ん? たしかドラゴンの素材を狩れる冒険者であったか?」


「今、地下牢に入れてあります」


「荒っぽくしたようだな、手こずったのか?」


「いえ、それが……大人しく連行されてまいりました。子爵閣下の名前を聞いて諦めたのではないでしょうか」


「なるほど、そうかも知れんな。では早速ここへ呼んでこい。直接話を聞いてやろう」


「呼んだか?」


いつのまにか部屋の中に居たリューが声を発した。


慌てるトッポ。


「貴様! どうやって地下牢を抜け出してきた!」


「お前がギット子爵だな?」


「……誰だ?!」


「こいつがリュージーンです」


「ワタシガリュージーンデス」


わざと巫山戯ふざけてオウム返しするリュー。


「……お前がリュージーンか」


困惑した様子のギットであったが、気を取り直して言った。


「牢を抜け出してくるとは、どうやら腕は立つようだな、さすがドラゴンスレイヤーだ。優秀な人間は嫌いではない、私のもとで働くが良い」


「お断りだ、お前とは趣味が合わん」


「貴様……口の聞き方に気をつけたほうがいいぞ?」


「馬鹿な奴だ。お前が女性を誘拐しようが圧政を敷こうが俺には関係ない。関わらなければこちらも関わる気はなかったのにな。だが、もう遅い。地下室のアレを見てしまったしな」


「見たのか。どうやら死にたいようだな…」


「ソフィもそのうち駆けつけてくるだろう。俺が見逃したとしても、さすがに、アレをソフィも見過ごすというわけにはいかんだろうな」


リューは馬車の中で、街からソフィ達が馬で追ってきているのを神眼で認識していたのだった。


「ソフィ? 誰の事だ?」


「子爵、それが、そのう……」


その時、部屋をノックする音がする。


「子爵、お客様がお見えです!」


「いま取り込み中だ、後にしろ!」


「それが……王女様と名乗っておられるのですが……」


「何?!」


「早かったな、ソフィ王女がお見えのようだ」


「貴様、王女と知り合いなのか!」


目を伏せるトッポ男爵をジロリと睨むギット子爵。


その時、急に外が騒がしくなった。


『お待ち下さい! 勝手に入られては困ります』


扉が勢いよく開かれ、マリー、ベティが入ってくる。


その後ろから、ソフィが入ってきた。


(アリスは常にソフィの後ろに居て背後を守っている。)



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ギット子爵の未来はどっちだ?!


乞うご期待!



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