第56話 リューを襲った者たちは……

「おい、リュージーン! 出てきやがれ!」


その日の夜、シンはリューの住むアパートの前に来て、大声でリューを呼び出した。シンは部下にリューの後を尾行(ツケ)させていたのである。その部下に案内させて、リューの住むアパートまで大勢で押しかけてきたというわけである。


「なんだ、シンちゃんか。夜中に大声出すと近所迷惑だぞ?」


「お…オメェにシンちゃん呼ばわりされる筋合いはねぇ!」


「声がでかいっつーの。もうみんな寝てる時間だぞ」


※この世界では暗くなったら眠り夜明けとともに活動を開始するのが一般的である。ロウソクやランプ、魔石を使った照明などもあるが、夜に起きていてもテレビやラジオなどのマスメディアがあるわけでもないので、日が暮れてからやる事はあまりないのである。


「で、何の用だ?」


「ちょいとツラァ貸してくれるか? イヤだっつっても無理やり連れて行くけどな」


「なんだか前にも聞いた事がありそうなセリフだが……どこへ行くんだ? スラムの奥まで行くのは遠いから嫌だぞ?」


「……うるせぇ、別にここでやってもかまわねぇんだぞ!」


「近所迷惑だと言ってるだろうが。もういい、俺が騒いでも大丈夫な場所に連れて行ってやるよ」


リューがそう言うと、シン達は一瞬めまいのような感覚を感じ、周囲の景色がぐにゃりと歪んだ。


気がつけば周囲の様子が変わっていた。


先程まで眼前にあったアパートも周囲の建物もなくなっていた。周囲を見回しても、上を見ても下を見ても土しかない。洞窟の中、広い空洞といった感じの場所であるが、土壁や天井はぼんやりを光をはなっているため、暗くはない。


「……なんだ? ここはどこだ?」


「ダンジョンの中だよ。“話し合い” 用に作っておいた広場だ。この中にはモンスターも出ないようになっているから、ゆっくりと話し合いができるぞ」


「な、何を、わけわからん、事…を……」


シンは周囲を何度も見回し、しばらく逡巡していたが、とりあえず状況を受け入れる事にしたようだ。


「じ、邪魔が入らねぇなら好都合だ!」


「で、何の用だ?」


「オメェが嘘つきだって事を証明するんだよ!」


「証明せんでも嘘って事でいいと言っただろう?」


「うるせぇ、それじゃ上が納得しねぇんだよ! テメェを半殺しにして吊るし上げてみせりゃぁ、兄貴だってオマエが大ボラ吹きだって分かってくれるだろ!」


「やれやれ……関わってこないなら無関係でいてやると言ってるのに、態々絡んでくるんだよなぁ……。バカなのかな?」


「……その余裕が、この人数相手にいつまで続くかな? やっちまえ!」


シンが連れてきた頭のもといガラの悪そうな男たち、三十人くらいはいるであろうか、それが、シンの号令とともに一斉に襲いかかってきた。


一斉にと言っても、三十人が一人に同時に攻撃を仕掛けられるわけもなく、結局、順番に一人二人が殴りかかって行くことになるわけであるが、リューは余裕で相手のパンチキックを躱し、ジャブを叩き込んでいった。


軽いジャブであるが、リューの筋力と重力魔法によって増やされた体重によって、オーガが怯むほどの威力となっている。人間相手では、当たりどころによっては重傷となるであろう。


一人、二人、三人。打たれた者は弾け飛び、あるいはくの字に折れ曲がり、動かなくなっていく。


背後から殴りかかってくるものも居たが、危険予知能力でそれもすべて察知し、余裕で躱し、反撃を繰り出していくリュー。


四人目、五人目、六人目。


七人目が倒れたところで、シンが叫んだ。


「何やってる! 動きを止めろ!」


その号令で、前からタックルしてくる男が居た。それをあえて躱さず、受け止めるリュー。神眼の能力によって、暗器なども持っていないただのタックルである事は分かっている。


男は、リューの腰の辺りに思い切りぶつかって来た。だが、リューは微動だにしない。重力魔法によってリューの体重は瞬間的に5tにもなっているのだ。まるで岩にでも体当たりしてしまったような衝撃を感じてタックル男は目を白黒させる事となった。


さらにもうひとり、背後から抱きついてきた者が居た。巨体をリューの上から覆いかぶさるように浴びせ、腕をリューの首に回して締め付けてくる。


だが、リューの首は人間ごときの力で締めつけられてもどうという事はない。


ただ、前後から男に抱きつかれても暑苦しいだけなので、リューは首に巻かれている腕を掴み、引き剥がした。


リューの強力な握力で握られた腕の骨は軋み、悲鳴とともにあっさり首に巻かれていた腕が剥がれる。


リューは背後に片手を伸ばし男の襟のあたりを掴みむと、そのまま一気に持ち上げ、頭上を越えるように投げつけた。一本背負いのような形で地面に叩きつけられてしまう男。


ダンジョンの壁・床は、リューの増加した体重による踏み込みを受けても崩れないように非常に強固に作られている。


叩きつけられた男は受け身を取ることもできず、ズシャリと言う音がして動かなくなった。


かなり激しく叩きつけてしまったが、どうやら男は死んではいない様子である。以前からリューは感じていたが、どうやらこの世界の人間は地球人に比べるとかなり頑丈にできているようだ。


この世界には地球にはなかった魔力というものがあり、それを使えば肉体も強化する事ができる。この世界の人間は皆、多かれ少なかれ、無意識のうちに魔力で肉体強化しているため、地球の人間に比べるとかなり頑丈なのである。


これでリューに倒された男は八人目。まだ律儀に腰にしがみついた男が九人目となった。


リューは男の腕の付け根近くを掴み、男を引き剥がすと、蹴り飛ばした。


攻撃というよりは押すようなキックであったが、リューの脚力で壁までふっとんでいく男。力任せに握られた腕の骨は砕けてしまったようだ。


宙を飛んだ男は、途中で立っていた別の男を巻き込んで壁に激突して倒れた。巻き込まれた男で十人目。


リューを取り押さえようと、四方から懲りずに飛びかかってくる男たち。それをジャンプして躱すリュー。着地したリューは足元に倒れていた男の一人の足首を掴み、そのまま振り回しはじめた。


重量がないかのように、凄い勢いで振り回される男。人間を武器代わりに振り回し、リューは周囲の男たちをなぎ倒していく。十一、十二、十三、十四。


振り回していた男から手を放したリュー。投げ捨てられた男に当たって、さらに男が二人壁に激突した。十五、十六。


リューは更に“加速”しながら男達に突っ込んでいく。リューの集中の高まりに応じて、リューの行動速度が時間を操る能力の効果で加速されていく。


パンパンパンと鳴り響く音。


リューが一歩踏み込むたび、肉眼で見えないほどの高速パンチに為す術もなく倒れていく男たち。


あれよあれよと、気がつけばもう二十五人が倒れていた。残っているのはシンとほか、攻撃に参加していなかった五人だけであった。


この五人は「五剣」フグ・ライ・ボエ・ベリ・ゴウである。全員元冒険者くずれ、元騎士くずれで、いずれも剣の腕が立つので五黒星の中ではそれなりに名を売っている存在であった。


「っきしょー、役に立たねぇ連中だな!」


シンが剣を抜いた。


「大人しくボコられておけば、半殺しくらいで済ませてやったのに!」


五剣もそれを見て全員が剣を抜いた。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


雑魚か強敵か?五剣とシンの実力は?


乞うご期待!



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