第55話 手を出すなと言ってるのに……

男 「お初にお目に掛かります、私はロンディと言イマス、五黒星のロンディと言えば、割と知られた名「知らんな」」


食い気味に答えるリュー。


「デスヨネー、ワタシもアナタを知りませんでしたし(笑)」


「で、そのアンディさんが俺に何の用だ? スカウトならお断りだぞ?」


「アラ、取り付く島もないですねぇ。ワタシとしては、是非ともアナタとお近づきになりたいと思っているのですが。てか、アンディじゃなくてロンディね」


「犯罪組織と仲良く付き合う気はない」


「おや、危ない発言ですね、やはり、暗黒街とは敵対する感じデスカ?」


「別に、お前らが俺に関わってこない限り、お前らと関わる気はないが?」


「なるほど、暗黒街の勢力争いに関わる気はない、という事ですかな? 実は、噂になっているのですよ、突然現れた凄腕の冒険者が、妙な正義感で犯罪組織を潰して回っている、なんてね」


「幼稚な正義感など持ってはいないさ。世界が変われば正義も変わるしな。世直しなどする気はない」


「そうですか、それを聞いてひとまず安心しました。少なくとも私としては、武闘派犯罪組織を一人で潰すような実力者とは、極力、敵対したくないと思っていますので」


「四夜蝶は向こうから手を出してきたんだ、態々火の粉を飛ばしてこなければ、スラムの奥に関わる気はない」


「でも、正義感がないというのは気に入りマシタ。どうです、アナタ、ワタシと一緒に働く気はアリマセンカ?」


「正義感がないわけじゃないんだが?」


「チョ待ってくれよ兄貴!」


もうひとり男が出てきて口を挟んできた。


「シンちゃん、引っ込んでなさいって言ったでショー! 話に割り込んで来ないでくれるかしら?」


「兄貴、俺は納得してねぇ! どんな大男かと思ったら、こんな細っこい奴が! 一人で四夜蝶を潰したとか、絶対嘘にきまってんだろ!」


噂なんて当てにならん、と息巻くシンちゃん。


「なぁオメエ! 嘘ついてたんだろ? 正直に言えよ!」


「別に俺は何も言ってないんだがなぁ……。ああ、嘘だよ。おれにそんな力があるわけないだろう? って事でスカウトも断るよ、もう行っていいよな?」


「もう、しょうがないわねぇ。また今度、邪魔が入らないところでゆっくりお話しまショー」


「遠慮するよ」


リューは“いらんいらん”と手を振りながらその場を後にした。


   ・

   ・

   ・


「嘘がバレて逃げていきやしたぜ!」


「バカ。あの子の実力はおそらく本物よ。私も最初は信じられなかったけど。それとも、私の情報網が間違ってるとでも?」


「い、いや、そういうわけではっ……でも! 兄貴だってアイツの実力を自分で確認したわけじゃないでしょー?」


「見なくたって分かる。情報の真偽を見極められないで、自分の目で見た事しか信じられない奴を脳筋って言うのよ」


「そりゃ、俺は兄貴みたいに頭良くねぇですよ!」


「あの子に手をだすんじゃないよ、死にたくないならね。まぁ別にアンタが死んでもアタシは構わないけど。代わりにあの子が仲間になってくれるなら最高ね」


「ヒデェよ、兄貴ぃ……」


   ・

   ・

   ・


― ― ― ― ― ― ― ―

ロンディと分かれたシンは、アジトに戻って仲間を集合させていた。


「これからリュージーンという男を潰しに行く」


「いいのか、ロンディはできれば仲間に引き入れたいと言ってたと聞いたが?」


「その兄貴が、直接奴に接触して判断したんだよ!」


「俺たち、五剣が出るほどの相手なのか?」


「兄貴が念を入れろって言っててな。なにせ、奴には四夜蝶を一人で潰したって噂だからな。念には念を、ってやつだ」


「一人でたった一晩で壊滅させたって話だな?


「流石に信じられねぇがな」


「俺も信じちゃいねぇよ。あんな細っこいガキが強ぇとかねぇだろ。なに、ちょっと痛めつけりゃあすぐに化けの皮が剥がれて泣き始めるだろうさ」


「なんだか怪しいなぁ、そんな弱っちいやつなら、お前が一人で殺りゃあいいじゃねぇか?」


「一人でできねぇから俺たちを巻き込もうとしてるんだろう? 兄貴の命令ってのも本当かどうか分からん」


「なるほどな。兄貴のコバンザメのシンに俺たちが命令される言われはねぇが……まぁ、手を貸してやってもいい。ただ、頼み方ってものがあるんじゃねぇのか?」


「頼み方ぁ?」


「そうだな、人にモノを頼む時は頭を下げるもんだろ? 両手を地面に着いてな」


「土下座しろってのか、この俺に?!」


「いやいや、そんな事する必要ないさ。ロンディの命令ならオレたちも黙って従うだけだ。ま、さっさと兄貴に確認して出発しよう!」


「ちょまっ……くっ」


シンの嘘はどうやらバレバレのようであった。シンは光の速さでジャンプし……


膝を着き、両手を突いて頭を下げていた。


「スイマセンデシタァ! お願いします、どうかリュージーンを倒すために力を貸してやってください!!」


「ふん、まぁいいだろう。噂のリュージーンの実力が本物なのかどうか、興味あるしな」


「くそー土下座までさせておいて、絶対勝てるんだろうな?! 負けたら承知しねぇぞ!」


「俺たちを誰だと思ってるんだ?」


「安心しろ、そいつの腕が多少立とうが、俺達五剣の相手になるわけはねぇだろうさ」


そんなやりとりがあって、五黒星が一人ロンディの配下で、「五剣」と呼ばれるフグ・ライ・ボエ・ベリ・ゴウの五人、さら無名の手下25人ほどを連れ、シンはリューの住むアパートに向かうのであった。



  * * * *



「シンはやっぱり行ったようね。勝手に五剣を連れて行くとは思わなかったけど。

五剣が相手では、リュージーンも勝てないかしらね? まぁ死なないでくれれば、治療して恩に着せて仲間に引き入れてやればいいか。

まさか、五剣が負けるなんてことはないとは思うけど……、噂のリュージーンの実力、見せてもらいましょうか」



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


無謀にもリューに挑んだならず者たちの運命は?!


乞うご期待!




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