第54話 リューに迫る謎の男達
新人冒険者研修、仕上げのダンジョン研修、仕切り直し。
ダンジョンの状況の確認も兼ねて、もう一度リューとレイナードが付き添いでプリプリレイディスの三人―――サリ・メグ・ナオミとギャビンにダンジョンに挑んでもらった。
ギャビンは、街に戻った後、リューを置き去りにして逃げた件について自らギルドに申し出た。
だが、リューは参加者であると同時に付き添い指導員の意味もあった事、またギャビンの行動には計画性はなく、初心者として実力不足・経験不足ゆえの衝動的な行動であったので、仕方がなかっただろうとしてお咎めなしとなった。
リューも、自分が置き去りにされた立場になってみて、その理不尽に怒り心頭であったが、地球に居た時に、緊急時に人を蹴落として自分だけ生き延びようとするのは罪に問えないという話(カルネアデスの板)も思い出し、今は冷静になっていた。
緊急避難的な状況で、計画的でない、思わず衝動的にやってしまった行為ならば―――良い事ではない、推奨される事ではないが―――罪には問えないかとリューも思えるようになったのである。
もちろん、リューは自分がされたように、最初から計画的に誰かを犠牲にしようと、簡単に考える姿勢は絶対に許せないと今でも思うが。
とは言え、それではギャビン本人が気が済まないと言う事だったので、数日間の謹慎処分ということになった。リューもダンジョンを調整する期間が必要だったのでちょうどよいインターバルであった。
ただ、ギャビンが仲間を囮にして逃げようとした事は、冒険者達の間に知れ渡る事となってしまった。
仲間を見捨てた。そんな噂が出てしまった冒険者は、パーティが組みにくくなる。だが、ギャビンはそれも、身から出たサビ、仕方がない事だと納得している様子であった。
そんなギャビンを、自業自得とは言え、少し気の毒に思ったのか、プリプリレイディスのサリ・メグ・ナオミがしばらくパーティを組んでやる事にしたようである。この四人に、後は優秀なスカウト役でも加われば、非常に優秀なパーティとなれるだろうとリューも思った。
ダンジョンについては、事前にリュー自身が入ってみて、問題ない事を確認している。予想通り、このメンバーであれば何の問題もなく快調に進んでいった。
新たに調整されたダンジョンは、ギルドマスター・キャサリンの要望で、最初はゴブリンやスライムなど弱い魔物しか出ない。そして階層が進むにつれ、徐々に数が増え上級種が混ざってくるようになる。
ボスとしてキング種なども出てくるが、プリプリレイディスの三人とギャビンで問題なく撃破できた。
第八階層まで進むと、初心者研修用に設定した階層は終了となる。
第八階層のボスは、それまで出てきたモンスターのキング種が勢揃いとなる。かなり難易度が高くなるが、これをクリアできるなら、一人前の冒険者と言って良いだろう。
ただ、プリプリレイディス with ギャビン達は、善戦したものの、第八階層のボス戦をクリアできなかった。
危険と判断し、リューがモンスターを一掃して終了となったのだ。
この結果をもって、研修では、第八階層のボス部屋の手前までで終了することとなった。
そこから先に進みたければ、自己責任で行くことになる。
ギルドとしても、其の先は、実力がちゃんとあると認められる冒険者しか進むことを許さない方針となった。
第八階層のボス戦の難易度が高すぎるような気がリューはしたのだが、キャサリンは、その先に進めば自己責任であり、危険度はどんどん高くなっていくのだから、それくらい余裕で突破できなければ危険だと判断したのだった。
第一陣が無事ダンジョン研修をクリアしたので、以降、新人研修に参加していた者たちがパーティを組んでダンジョン研修に参加していった。
ただ、他の参加者達は第八階層までは到達できずに終了としたところが多かったようであったが。
プリプリ+ギャビンは、かなり優秀であったのである。この四人は将来有望とギルドに認識される事となったのであった。
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研修も終わり、リューは暇になったので、教会に顔を出す事にした。最近は冒険者ギルドの仕事で忙しく、教会へは顔を出していなかったのだ。
リューは転移を使えば教会へも一瞬で移動できるが、急用でない時はなるべく歩いて移動するようにしていた。途中、料理などをコツコツと買い込んで収納していたためである。また、点から点へ移動してしまうと、街の雰囲気など、諸々の情報が入ってこなくなってしまう事を感じていたためであった。
いつもどおり、教会へ向かう道の途中、いつのまにか横に並んで歩きながら声を掛けてくる男が居た。
男 「リュージーンだな? ああ、立ち止まらなくていい、一言伝えたい事があるだけだ。」
並ばれるまでリューは男にまったく気づかなかった。もし害意があるなら危険予知能力で察知できただろうが、そうではないので察知できなかったのであった。
まぁ、害意がないならば構える必要もないだろうと、リューは歩き続けながら男の言うことを聞いた。
男 「五黒星がオマエを狙っている。気をつけろ。」
男はそれだけ言うとスッとリューから離れていった。離れ際、名前を尋ねたところ、男は「ゾーン」とだけ言って去っていった。
五黒星といえば、スラムの奥で縄張り争いをしていた犯罪組織のひとつだ。
ミムルのスラム街の奥には3つの犯罪組織「四夜蝶」「五黒星」「銀狼」が縄張り争いをしていた。そのひとつ、四夜蝶はリューが潰してしまった。結果、残った空白を五黒星と銀狼が奪い合う形となっていた。
ただ銀狼はもともとそれほど大きな組織ではなかった事もあり、縄張りのほとんどを手中に収めたのは五黒星であったのだが。
「五黒星」は四夜蝶と争っていた武闘派で、躊躇いなく暴力を行使して悪事をなす、悪名高い組織である。その五黒星が、対抗組織消滅により、急激に力を付けていたのであった。
考えてみれば、残った組織が四夜蝶を潰した者を警戒するのは当然の事であろう。
その者は、五黒星と拮抗する武闘派勢力を一人で潰した実力者である。もし、敵対する可能性があるなら早めに潰してしまう必要がある。あるいは……敵の敵は味方、あわよくば仲間に引き入れられるかも知れない。そうなれば、組織としてはさらに力を増す事ができる。
「銀狼」は、リーダーの髪の色からその名が付けられたと聞く。小さな組織だが、そのリーダーは非常に腕が立ち、また義に厚い男であるという。組織の人間はもとより、街の一般人にも人望があるという噂をリューも聞いたことがあった。
そして確か、その銀狼のリーダーの名前がゾーンであったことをリューは思い出した。
急激に力を増していく五黒星に対し、銀狼としては、リューまで敵に取り込まれたら困ると言う事で、わざわざ釘を刺しに来たというところか?
だが、去り際に、一瞬だけリューは神眼を発動したが、ゾーンの心に悪意はなく、むしろ善意しか感じられなかった。
そしてリューは、小さく手を挙げながら去っていったゾーンの背中に見覚えがある気がしていた。
記憶を掘り下げてみれば、果たして、過去にリューはゾーンと会ったことがあった事を思い出したのであった。
リューがミムルに来たばかりの頃、スラムで迷ってチンピラに絡まれてしまった事があった。
リューは強盗に遭っても盗られるほどの金目のモノは何も持っていなかったのだが、それが逆に相手を怒らせたようで、ナイフが出てきてあわや刺されるというところだった。
だがその時、通りがかった一人の男に助けられ、事なきを得た。その時助けてくれたのが銀の髪の男であった。
男は名乗らなかったが、今日と同じ様に、背を向けたまま小さく手をあげて去っていったのだった。
なるほど、あれが銀狼か、人望があるという噂も理解できると思うリューであった。
* * * *
教会へいつもどおりオヤツを差し入れして帰路についたリュー。
教会ではお茶を一杯飲んだが、その時シスターから、そういえば何度かリューを尋ねてきた男が居たという話を聞かされた。
割と礼儀正しい男であったとの事、もしやと思い、その男は銀髪だったか尋ねてみたが、違うという事だった。
そして、教会からの帰り路、待ち構えていたのであろう、早速怪しげな男にリューは声を掛けられたのだった。
男 「アナタがリュージーンさんデスネ? 四夜蝶を一人で潰したトイウ?」
リュー 「誰だ?急に」
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次回予告
手を出すなと言われているのに、やっぱり手を出してしまう?
乞うご期待!
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