第3話 爽やかな香りに彩られる店内
なんでお母さんがここにいるのよ…私はようやく居場所を見つけたの!!両親が引いた道ではなく…自ら道を作って歩く道を私自身が作って歩いているの…その邪魔をしないでよ!!お客様達とも親交も深まって、お店も軌道に乗って来ているの…お母さんは知らないだろうけどね…この店は凄いのよ…お父さんの様に財力で全てを手に入れる事が出来ないものが…この店、ARIXIESには不思議と集まって来るの…
(私は自らの居場所を犯されるのを嫌い、守る為に母親に歯向かいました。マスターに視線を向けても、あの人は相変らず、自らの力で乗り越えて見ろという視線を私に向けて来ていました。そして私は母に背を向けて、制服のジャケットを脱いでピアノの席に腰掛けると、母に語って弾き始めました)
聴いてよ…私…成長したのよ…
(ピアノをゆっくりとしたテンポで弾き始める。私も初めてこの店のピアノに触れた時には、衝撃を受けました。自然と手に馴染んで違和感なく弾けたからです。調整も一切せずに、私はマスターの許可を一回取っただけで、今まで弾き続けていました。すると、店の扉が開いて近くの店舗の方々が続々と来店して来ます)
いらっしゃいませ…ごゆっくり鑑賞して、お茶をお楽しみくださいね…
(母に視線を向けると、何も言わずに私のピアノを聴いてくれていました。そしてゆっくり私の元に近寄って来ると、肩に手を乗せ、優しい口調で語りかけて来てくれました)
まだまだね…でもここに…バイオリンの演奏を加えたら…貴女の…弾き語りは更に良くなるのではなくて…絵美…
(近所の店舗の方達は立って聴く方、カウンターの席で聴くなどと、様々な方でいつもの店内になり始めていました。そして母の言葉に私は鍵盤を弾く指を止めて、母の方に視線を向けました)
お母さん!?いいの…
(すると、母は深いため息を付いて、私に語りかけて来ます。そして常連客の方達からは)
絵美ちゃんの演奏はいつ聴いても心がすっきりするよな…マスター、あんた一人の時じゃ…こんな感じはなかったぞ…あっはははは…
(その言葉に、母親も私も自然と笑みを浮かべ始めます。カウンター内のマスターは、あきらかに不機嫌そうに煙草の煙を吐いて、珈琲を淹れ始めます。豆を取り出す際に、私に背を向けながら手を振って見せる行為を見た私は、マスターが怒っているわけではない事が分かりました)
御父様には、私から上手くいっておきます…貴女はお客様、皆様を不快にしない演奏を心掛けなさい。よろしいですね…店主…絵美の事、何卒宜しくお願い致します…
(母は私に背を向けると、マスターに深々と頭を下げて帰ろうとしますが、常連客の方々が母を引き止めました)
絵美ちゃんの母親なら、最後まで娘の演奏を聴いて行きなさい。それが親というものですよ。ただ叱るだけなら、誰でも出来るんですからね…私達は絵美ちゃんを守って行きますよ。このマスターと共にね…
(その言葉に涙を浮かべると、常連客の皆様は手拍子を取ってくれて、再びピアノを弾き始める事が出来ました。母もカウンターの席でうっすらと涙を流しながら、私の演奏を聴いてくれていました)
ARIXIES(アリシーズ)愛を育む拠り所 水浅葱 @mizuasaghi
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