第2話 ARIXIESを彩る華やかな者達

俺の店でピアノを弾きてぇというから、ただ弾かせているだけだ…




(椅子からゆっくり立ち上がると、未だ店の入口で俺の事を睨んで立っている女が、ピアノを弾きに来ている女の母親なのだと容易に想像が出来た。そしてそんな女に俺は黙々と語り掛ける)




何か飲むか…まぁと言っても…メニューに書かれてある物以外、作れないがな…




(メニュー表にはただ珈琲と紅茶と録茶、軽食としか書いてない。それ以上書いてもめんどくさいからだ。すると、女はカウンターの席に座り、注文して来る)




紅茶を頼めるかしら…それであの子は…絵美は…




(ティーカップに紅茶を黙々と注ぎながら、ピアノ弾きの娘の事を語り掛けて来た。だから俺は紅茶を女に差し出すと、椅子に座って説明した)




絵美は…制服姿でいつもここに来ては夜まで客達と楽しそうに会話をして帰って行っているよ。なんだ、家に帰っても、親であるあんたとろくに口も聞かねぇのか?あいつは…




(絵美の深い事情までは聞かず、ただ下の名前だけは聞いていなかった。この女が絵美の母親なら絵美は良い所の娘となるな。身に着けている装飾品、洋服を見れば、それらがすべて高級ブランド物とわかる)




そう……そういえば、まだ名乗っていなかったわね…如月沙月よ…




(女のフルネームを知る事が出来た俺は、新しい煙草を取り出して口にくわえ始める。その時だった。店の扉が開くと、元気な絵美の声が聞こえて来た)




マスター、遅くなってごめんなさい…学校の行事に引っ掛かってて…あっお客さんですね。いらっしゃいませ!ようこそ喫茶店ARIXIESアリシーズへ!!不真面目なマスターとピアノ弾きの私がお客様に笑顔をおお送り致します…




(深いため息と共に俺は、またこいつの客に対する挨拶が始まったなと、呆れた表情で聞いていた。そして母親の沙月の表情は、みるみるうちに怒っているのが見て取れた)




絵美…その辺にしとけ…この客な…




(最後まで言いきる前に沙月はカウンターの席から立ち上がり、背後にいる絵美に怒鳴り散らした)




絵美!!貴女という子は、何をしているの!!




(絵美の表情は笑顔のまま母親の顔を見ると、固まった様に動かなくなった)

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