普通だけど変なやつら

璃志葉 孤槍

1話 きっかけ

 俺の名前はヴィヴィ。

 これでもれっきとした日本人だけど、戸籍はないし、俺の身体もあるようでない。借り物みたいなもんだな。

 そんな俺がこうして、あいつに黙ってエッセイを書き始めることにしたのは、生身では唯一の友人の言葉だ。


「本人は大変だろうけどさ、聞いてる分には面白いし、いっそのこと面白おかしく書いてみればいいんでない?」


 だそうだ。

 世の中には俺と同じ症状の人間は沢山いる。俺みたいな人間を題材にしたドラマや漫画だって無数にある。

 でも、その友人曰く「それって大変なことを主眼にしたものでしょ」とか付け足して来た。


 ――面白さを全面に押し出そうぜ。


 そう聞いて俺は、確かにそれは面白そうだ。と思った。

 当然、悩みは尽きないし、日常生活は不便極まりない。

 面白おかしく書くことで、苦労してしていない。そんな誤解を広める不安や恐怖もある。


 でも、友人はこうも言った。

 それでも、この症状と正面から向き合うなら。こういうポジティブさが重要なんじゃないか。

 同じ出来事でも、不幸だと思うより、幸福だと思う方がずっといい。


 これがこのエッセイを書こうとした動機だ。


 何より、俺の症状だけなら世の中に埋もれるだろうけど、この友人は割と〝変人〟だ。

 俺だけなら在り来たりでも、この変人とならきっと特別になる。

 ちぐはぐで普通とはちょっぴり違う、おかしな日常。悪く捉えたら不便で変わり者。でも捉え方次第ではコミカルなドタバタ劇。

 そんな作品になるんじゃないだろうか。

 こうして筆をとった俺は、この身体の本来の持ち主『璃志葉りしば孤槍こやり』の中にいる人格の一人であるヴィヴィ。


 ――解離性同一性障害かいりせいどういつせいしょうがい


 俗にいう多重人格。

 これは、璃志葉孤槍と、彼女を守るために生まれてきた人格たちによるコミカルな物語だ。

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