第14話「すごそう」
「めちゃくちゃよく寝れた」
起きたら頭も体もすごく軽くて、まるで自分の身体じゃないみたいだ。
ベッドのおかげと言うよりは、おそらく『安息枕』のおかげなんだろう。
「そして腹が減ったな」
冷蔵庫の代わりになるものはあるし、『次元袋』が解決してくれそうだけど、食べ物がないのだから意味はない。
窓の外を見てみると夕暮れになっていた。
「いまからは食事に出かけるのはきついな」
いくら魔石車は馬よりも速いと言っても、移動時間はそれなりにかかる。
こういう場合は地球に戻って何か夜食を確保するほうがいいだろう。
時差ボケはいまのところ感じないのがふしぎだけど、医学で解明できたりしないんだろうなあ。
結局、地球に戻ってヒマつぶしすることにした。
どうせ明日も出勤なので。
次の日も終電で帰ってきた。
『ボンズリング』の力で異世界に移動しようとしたとき、ふと思いつく。
「ほかのものを持っていったらどうなんだろう?」
ペットボトルと空き缶が売れるのはわかっているけど、菓子パンの包み、からしチューブ、レジ袋あたりはどうなんだろうか?
価値を見出してもらえなければただのゴミなんだけど、見せるだけ見せてもいいんじゃないかと思った。
「というわけで今日は珍しいと思ってもらえそうなものを持ってきました」
持ち込んだのは『マガ道具店・本店』で、今日はおじいさんに対応される。
ウェンティさんじゃなくてほんのすこしがっかりしてしまったけど、態度に出ないように気をつけよう。
「異世界の製品はどれも興味深いからな」
おじいさんは目を見開きながらチェックしたあと、
「三つで合わせて金貨800枚でどうだ?」
と提案してくる。
「その額で買い取りをお願いします」
いったいどこからそんな金が出てくるのかふしぎに思いながらも即決した。
「あんたは毎度珍しいものを持ってきてくれるな。これからも持ってきてくれるなら、見合った金額で買い取らせてもらうぞ」
とおじいさんは機嫌がよさそうに目を細める。
「ありがとうございます」
ここで金貨が800枚も手に入ったら、こっちでの生活での心配はもうしなくてもよくなったな。
金貨を持ち歩くのは心理抵抗がないわけじゃないので、持ち運びしやすくて換金性の高いものにかえることも視野に入れたいけど。
ウェンティさんがいないのでその辺はちょっと質問しにくいし、またの機会にしよう。
ウチに移動したら普通にドラゴンが青年の姿で顔を出す。
「ほかの土地に行っていたのか?」
質問されたのはいいきっかけだ。
自分の事情を伝えておこう。
「なるほど。座標が王都とやらにリンクされているようだな。貴様の意思でないというなら、私が変更してやるがこの場所でいいのか?」
「ええ、できれば」
ドラゴンからの申し出は願ってもないことだ。
用がないときもいちいち王都がスタート地点になるのは厄介だから。
行き来のことを考えるなら、マーキングとやらは帰還ゲートのあるヌーラの街のほうが便利だと思う。
でも、こっちに完全に移住したあとは必要なくなるだろうから難しいんだよな。
「終わったぞ」
「早いですね」
あっという間の出来事(というか何をしたのかすらわからない)に目を丸くすると、ドラゴンが鼻を鳴らす。
「しょせん人の手でつくられたものに過ぎない」
ドラゴンのほうが圧倒的に強者だってのは、こっちの人の話でイメージできていたけど、ガチですごそうだ。
「貴様の世界の料理なり物品なり、見せてくれるなら対価は用意しよう」
とドラゴンは告げる。
これはチャンスかもしれない。
ウェンティさんが唖然とするほどすごいアイテムを持っている相手なので、もっと生活が便利になるものだって期待できる。
「わかりました。今度こっちに戻ってくるときに何か持ってきます」
「期待している」
と言い残してドラゴンは湖に消えていく。
彼がこわくて人も生物も近づかないみたいなので、最強の番犬であり魔除けだなと思うけど、さすがに言葉にはできない。
「しかしドラゴンが喜ぶものって、いったい何だろうか?」
すぐに浮かんくるアイデアはなかった。
こればかりはウェンティさんに相談してもあんまり意味はないと思われる。
焼き魚と蒸し料理に興味を持っていたことを考えるなら、食べ物関係がいいんだろうか?
いろいろと考えてみたものの、ドラゴンにとって珍しければ、それでいいだろうという結論を出す。
「空き缶だってペットボトルだって、こっちだと珍しくて高値がつくもんな」
こっちの世界にない可能性が高いと言えば、やっぱり単なる魚料理よりも魚の缶詰のほうがいい気がした。
保存に適しているアイテムがある世界なんだから、缶詰や保存食といったものは存在しないか、廃れているんじゃないかと思うんだよな。
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