第7話「質問をしてみよう」

 ヌーラの街に戻り、顔なじみになりつつある女性に銀貨を払ってアパートに帰還した。


 スマホで時刻を確認してみたら、帰宅後一時間ほどしか経過していない。


「どういうことだ?」


 首をかしげたくなる。


「あっちとこっちの時差ってことだろうか?」


 地球内でも時差があるんだから、世界規模であったとしてもふしぎじゃないけど。


「俺にはわからないな。寝ようにもすっきりしすぎてるし」


 仮眠をとったおかげか、まったく眠くなかった。

 布団に入っても時間の無駄だろうなとしか思えないくらいに。


 仕事に追われていたせいで趣味らしい趣味はないし、アパート内に物もない。

 日付が変わったあとだし、近場であいてる店だってないだろう。


「もう一回、異世界に行ってみるか?」


 どうせ『ボンズリング』の効果は検証しておきたいからな。


 手ぶらのままでも異世界に行けるのかどうか、行けるならどこの街に飛ばされるのか、気になっている点はあった。


「一回くらいなら手ぶらでもいいしな」


 金貨も銀貨もまだまだたっぷりと残ってるので、帰還料を払うことはできる。


 それにあれだけ過ごして一時間程度しか経過してないなら、もっとあっちで時間を使えそうだ。


「よし、行ってみよう。その前にシャワーくらいは浴びておくかな」


 シャワーを浴びて服を着替えて、ボンズリングを左手首につける。

 

「……何も起こらないな」


 やっぱりドアを開けるという行為がトリガーなんだろうか?

 そんな気がしたので、アパートのドアを開けてみる。


「正解だったな」


 見覚えのある王都の街並みを見ながら俺はつぶやく。


 本当ならウェンティさんたちにあいさつくらいはしたほうがいい気はするけど、店じまいって老人が言っていた。


 日を改めるほうがいいだろう。


「あれ、あんたさっき中に入っていかなかったか?」


 門をくぐろうとしたとき、怪訝そうな顔の兵士に呼び止められる。


「ええ、実は」


 やましい点はないのだから、兵士には正直に全部話してしまう。


「『ボンズリング』ってすごいですよね。本当に来れたので」


「へー、話には聞いていたけど、実際にそいつを使って訪問した異世界人は初めて見たなあ」


 兵士たちは驚いたり感心したりという、まさかの展開だった。

 

「もしかして異世界人ってあんまり来ないんですか?」


「数年に一回くらいのペースだと思うよ。再訪者タイプはあんたが初めてさ。ほとんどが一回しか来ないもんな」


 とおじさん兵士が答えてくれる。

 そうだったのか……みんな異世界人に驚かないわりに、全然遭遇しないはずだ。


「ところで王都で宿をとりたいと考えているんですけど、ここからはどう行けばいいですか?」


 と次の質問を放つ。

 

「宿ならまっすぐ行って左手側に行った位置にあるけど、取りにくいと思うぞ。地方からやって来る富裕層が利用するからな」


「なるほど」


 兵士の答えを聞いてウェンティさんたちが、あまりすすめる気がなさそうだった理由がわかった。


「じゃあ泊まれないことも想定したほうがいいですね」


「安宿ならあるんだが、あんた異世界人だろ? 見たところ強くもなさそうだし」


 ずばずば言われるけど、安宿があるエリアは治安が悪いので、行かないほうがいいってわけか。


「じゃあ、自然が多い場所って王都の近郊でありませんか?」


 過ごすなら人が多くない場所のほうが好ましい。


「森林開発が進んでるからなぁ。ただ、王都の東の『レムレース湖』あたりには自然が多い。でも、あそこはドラゴンがいるから、危険はデカいと思うぜ?」

 

「ドラゴンがいるんですね」


 さすがファンタジーっぽい異世界だ。

 ドラゴンなんて生き物もいるのか。


「ああ、不用意に近づかないほうがいいと思うぞ。あんたは異世界人だから、ドラゴンのやばさが想像できないだろうが」


「ええ、まあ、そうですね」


 おじさん兵士の言葉にうなずいておく。


 漫画、ゲーム、アニメはたしなんでいたので、まったく想像できないわけじゃないけど、実物はまったく違うって可能性はかなりあると思う。

 

「あと気になってるのは何があるかな」


 考えてすぐに浮かんでくる。


「交通手段って馬車だけなんですか? 一度行った場所に自由に行けるアイテムとか、ありませんか?」


「魔法使いならやりようはあるけど、あんた魔法使えないだろ」


 兵士の返事はもっともすぎた。 

 魔法を使ってみたい気持ちはあるけど、たぶん無理なんだろうな。


「異世界人なら魔法使える素養がある奴がいてもおかしくないけど、教えたがる奴がいないからあきらめるんだな」


 中年の兵士が優しい顔で言う。


「なぜですか?」


「こっちの金をろくに持たない上に、いつ故郷に帰って戻って来るかわからん奴らだぞ。教える相手としてリスクが高すぎるじゃないか」


「ごもっとも」


 俺みたいに何度もこっちに来れる人がほとんどいないんじゃ、こっちの人だって教える気にならないよな。

 

 あと俺みたいにたまたま売れるものを持ち込んだ人もほとんどいないっぽい。


「あんたの場合は素養さえあれば物好きが教えてくれるかもしれんが、期待しないことだ。異世界人はそのへん信用されにくいからな」


「ごもっとも」


 外国人ってだけで信用されづらいことだってあるのに、世界が違う人間が簡単に信用されないのは納得しかない。


 ウェンティさんとその祖父のふたりがいい意味で異常なんだと思う。

 

「いろいろと教えてくれてありがとうございます」


「気にするな。何かあったら頼って来てくれ。あんたらだって、俺たちにとっては守る対象だからな」


 兵士たちは鷹揚な笑顔で答えてくれた。

 さて、とりあえずレムレース湖とやらに行ってみようか。


 ドラゴンだって刺激しなければ出てこないかもしれないし。


 

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