第5話「マガ道具店・本店」

 兵士に教わった通りの道を進むと、【マガ道具店・本店】の看板と目印と言われた青い屋根が見えてくる。


 店の外見は本店じゃないほうと似ているが、こっちのほうが大きい。

 王都にかまえているだけあって品も多いのだろうか。


「ごめんください」


 声をかけて中に入ると二十代の若い女性と、七十歳は超えてそうな老人のふたりと目が合う。


「見ない顔だな。何の用だ?」


 と老人が不愛想に質問する。


「疲れがとれるアイテムが欲しいのですが」


「アイテムに頼らずにしっかり休め、馬鹿者」


 老人は鼻を鳴らして一蹴した。

 正論だけど、商品を買いに来た客に言うことじゃないのでは?


「正しいですが、回復がおいつかないので」


 六連勤一休だと体がもたない。

 週に一回でも休めるだけまだ幸せなんだけど。


「じいちゃん、さすがに客に失礼でしょ」


 つなぎを着た金髪の女性がたしなめ、こっちに向き直る。

 販売員とは思えない野暮ったいファッションなのに、顔面偏差値が高すぎてびっくりした。


 異世界人は美形が多いけど、この女性はさらにひと回り美人かも。


「どんなアイテムが欲しいの? 疲れをとりたいとか、よく眠りたいとか、食欲がないとか、いろいろあるでしょ?」


 見とれるのは失礼なので視線をずらす。

 そもそもこんな美人と目を合わせて会話できる自信もない。


「疲れをとりたいのと、できればよく眠れるアイテムも欲しいです」


 寝起きがすっきりしてないのは睡眠の質かも、と疑ってはいるからだ。

  

「疲れをとるならこっちの『養生玉』でいいね」


 と彼女が手に取ったのは緑の粒を瓶詰にしたものだ。


「睡眠に関してはこっちの『安息枕』がいいんじゃないかな」


「枕は大事って言いますからね」


 枕があってるかどうかチェックしていくのは正直めんどうなので、アイテムが解決してくれるならありがたい。


「どっちにする? 『養生粒』なら銀貨10枚、『安息枕』なら銀貨20枚だけど」


 と女性に聞かれたので、


「両方ください」


 俺は即決する。

 合わせて銀貨30枚なら払えるからな。

 

「あんた異世界人っぽいけど、お金大丈夫?」


 女性は驚いたのか、ちょっと目を細める。


「はい」


 と言って【ユニーク財布】からあまっていた銀貨を取り出す。

 だが、彼女の視線は銀貨じゃなくて俺が持っている缶コーヒーをとらえていた。


「それは?」


 真剣なまなざしで問いかけられる。

 【マガ道具店】つながりだから調べたらわかるはずだから隠す理由がないな。


「故郷から持ってきたものです。【マガ道具店】に金貨で買い取ってもらったんですよ」


「ああ! おじさんが言ってた異世界人ってあんたなのか!」


 女性だけじゃなくて老人も驚いたらしい。


「珍しいものを持ってきたというが、たしかにな」


 缶コーヒーは相当珍しいらしく、ふたりは興味津々だった。


「よかったらそれ売ってくれない? ウチは金貨180枚出すからさ」


 と女性が言い出して老人もうなずく。

 そんなポンと出せる金額なのか?

 

 それとも回収できる自信があるからこそ、強気な金額を言えるのか?

 

「いいですよ。中身が入ったままでもいいですか?」


「異世界の飲み物!?」


 確認したらふたりはさらに勢いよく食いついてきた。


「飲み物が入ったままなら、さらに金貨50枚出すよ。いいよね?」


「もちろんだ」


 女性の質問に老人は食い気味に即答する。

 どれだけ興味があるんだ……おかげでこっちでの資金に困らずにすんでるけど。


「じゃあ金貨230枚と『安息枕』、『養生粒』だ。アイテムの持ち運びはどうする?」


 アイテムを持ってきた女性に聞かれて俺は返事に困ってしまう。


「たしかに枕を抱えてうろつくのは不便そうだ」


 サイズはそこまで大きくないけど、手がふさがってしまうからな。


「よかったらバッグでも買う? 『高度収納バッグ』なら銀貨10枚だよ」


「買います」


 俺は即決する。

 見た目はすこし大きめのリュックサックなのが意外だ。


 枕も瓶もスムーズに入る。


「容量を増やす魔法がかけられているから、かなり重宝すると思うよ」


 と女性に説明された。

 魔法がここで出てきたかとちょっと感動する。


 買った品物を収納したところで、気になっていたことを聞いてみようと思いつく。


「無自覚性再来者ってご存じですか?」


「あんた、無自覚タイプなのか」


 女性も老人も知っている反応だった。


「それだと次も来れるのか、わからないんじゃない?」


 女性がじっと見つめてくる。

 トリガーについてどこまでしゃべっていいのかわからないな。


「一応、転移条件の心当たりならありますけど」


 と言うとふたりの表情が心なしかやわらぐ。


「それなら話は早いね。『ボンズリング』があれば、好きなときに来れるようになるはずだから」


 と女性は言った。


「何ですか、それ?」


 聞き覚えのない単語に首をかしげる。


「こいつだよ」


 女性は銀色の腕輪を取り出して見せた。


「この世界とあんたの世界を、あんたが望んだタイミングでつなげる効果を持つ。もっともゲートを使わないと、もとの世界に帰れない。こっちに来るためのアイテムと言える」

 

 と彼女は話す。


「そんなアイテムがあるんですね」


 帰還ゲートも考えてみればふしぎな効果だ。

 

「珍しいものを売ってくれて、商品を買ってくれたお礼にこいつはあげるよ」


 と女性は言ってリングを差し出す。


「え、いいんですか?」


 困惑する俺に彼女は白い歯を見せる。


「ああ。もともとあんたら異世界人にしか使い道がないアイテムだしね」


「そりゃそうですね」


 地球からこっちに来るためのものだとしたら、こっちの世界の人にはガラクタに過ぎない。


 どうやってつくったのは謎だけど、説明されても俺には理解できない気がする。

 

「また来てくれて商品を買ってくれるなら、ウチは万々歳さ。たいていのものを揃えられる自信ならあるよ」


 女性の明るい笑顔は自信を感じさせるものだった。

 王都に大きな店をかまえているくらいだから事実なんだろう。


「また来ます」


 と言って店を出る。

 これからどうするのか、疲労感が抜けないと頭がまとまらない。


 とりあえず『養生粒』のほうを試してみようとひと粒口に入れた。 

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