第四話「壁のシミ」
何日か前、部屋の壁に黒っぽいシミができた。
なんのシミだろう?なにか溢したのかな、でも覚えがない。
白い壁だから、けっこう目立つ。
……気になって、つい視線がいってしまう。見た目は普通のシミ。顔に見えたり、人の形に見えるわけじゃない。日が経つにつれて形が変わったり、大きくなったりするわけでもない。強いて言うなら、気になる頻度が日に日に増えてきているような気がする。チラチラと見てしまう。作業をしていても集中がすぐに切れて、シミの方を見てしまう。何故か、無性に気になる。なんとなく写真を撮って、友人にメッセージを送ってみる。
「部屋の壁にシミできた」
友人から返信が来る。
「どれ?」
……どれって、デカデカと映ってるじゃん。
「黒っぽいの、あるじゃん」
「見えない」
え?嘘でしょ。どうやったって見えるじゃん。
これ以上は言い合いになりそうだったから「写真だと分かりづらいかもしれないね」って適当に話を切り上げた。もやもやする。なんで見えないの?
シミができてから一週間くらい経った。部屋に居る時は、もうほとんどシミを眺めている気がする。出かけている時も頭から離れない。
声が聞こえる。
シミの方かな。なんて言ってるのかは分からない。
でも、呼ばれてる気がする。
昨日の声、やっぱり自分を呼んでるみたい。
それに、知ってる声だ。
分からないけど、知ってる声だ。
うん、ごめんね。今まで寂しい思いさせて。
よく頑張ったね。これからは一緒だからね。
もうすぐ、会いに行くね。
*
その一言だけメッセージで送られてきてから、彼と連絡が取れなくなったんです。返信しても既読がつかないし、電話をかけても繋がらない。「部屋の壁にシミできた」って何もない壁の写真を送ってきた時から少し様子が変でしたから、何か嫌な予感がしてすぐ彼の住んでるアパートに向かったんです。インターホンを鳴らしても応答はありませんでした。当然鍵は閉まってましたから、大家さんに事情を説明して開けてもらったんです。
そこで、見つけました。
あったのは、彼が言ってた「黒っぽいシミ」ではなくて。
ミキサーにかけたみたいにグチャグチャになった彼と、飛び散った彼の血でできた赤いシミだけでした。
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