第9話 青年の名前は
また次の週、例の数学の課題を携えて私は図書館に来た。
また扉を開けて図書館に入る。今日は青年は起きていた。
「いらっしゃい。」
カウンターで何やら事務仕事らしいことをしていた青年はまた私に微笑んできてくれた。私もぺこりと会釈して微笑む。
そのまま前回と同じ、一番奥の机の一番左端に座る。
しばらくしてやはり自力では解けない問題が出てくる。もちろん数学だ。
あの青年に聞いてみようか。でも迷惑かな。まだ2回しか話していないし、名前も知らない。
でもこれはわからないな。。。
青年を探してあたりを見渡す。するとすぐに青年が気が付いてくれた。
カウンターからやってきてどうしたの?と私の隣に座る。
「この問題なんですけど、」
そこから先週と同じように問題をあれこれ教えてもらった。
今日は一時間近く、詳しくいろいろと教えてもらった。
課題がひと段落したところで2人そろってふーと一息つく。
隣で青年も背もたれに寄り掛かるように座りなおす。
「ありがとうございました」
お礼を言うと、青年はいいえというように微笑む。ほんとにいつも優しく微笑んでいる人だ。
「ねえ。名前聞いてもいい?僕はルト」
青年は机に肘をついて前かがみに座りなおす。自然と2人の距離が縮まる。
「河北えり奈です」
「えり奈ちゃんか。いい名前だね。またわかんなかったらおいで。僕は2階にいるから」
ルトさんは立ち上がってそのまま螺旋階段を上って2階に行ってしまう。
そんな程よい距離感が、友達をつくるのが苦手な私にはちょうど良かった。
私はそのまま数学の課題を続けて、今日はほかにもいろいろと勉強をした。
この図書館にいるとすごく集中できる。今日も夕方までがっつり勉強できて満足だ。
遠くから5時の鐘が聞こえてきた。
そろそろ切り上げようかなと立ち上がる。ルトさんはまだ2階でがさごそ本の整理をしているようだった。
私は荷物を片付けて、カバンをもつ。
出入口に向かって歩いて、図書館を出る直前で2階を振り返る。
すると2階からルトさんがばいばいという感じで手を振ってきてくれた。
私はお辞儀を返して図書館を後にする。
それからも週に一度か二度の頻度で図書館に通い、そのたびにルトさんとおしゃべりしたり、課題を教えてもらったりしていた。
私にはこの時間がとても楽しみなものになっていた。
勉強ははかどるし、課題も教えてもらえるし。
何より私はルトさんに会うのが楽しみだった。
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