第5話 青年との出会い
私は階段のほうへと向かう。階段はおしゃれな螺旋階段で一段一段に植物が置かれている大きな階段であった。反対の端にも同じような階段があり、それぞれ2階へと続いているようだ。
手すりもヨーロッパを思わせるくねくねした植物を模したおしゃれな形になっている。色は階段も手すりも茶色でおしゃれだけど派手過ぎず、図書館とたくさんの植物にマッチしていた。
私はその階段を上り、二階に上がる。いったいどんな本が置いてあるのだろうとみていると本棚には何も記載されていなかった。図書館の本棚は大抵、管理番号と本のジャンルが本棚に記載されているし、この図書館も1階の本棚にはそのような記載があった。しかし、今目の前にある2階の本棚にはそういった記載がないようだ。
とりあえず、一番近くにある階段上がってすぐの本棚にある本を見てみる。
何やら英語のような文字でかかれた本がずらっと並んでいた。
英語のようだけど英語ではないみたいで題名が読める本はぱっとみなかった。試しに一冊本を開いてみると中にも英語のようだけど何か違う言語でびっしりと何か書かれていた。
パラパラめくってみるとたまに挿絵があって、魔法使いのようなおじいさんの絵だったり、魔法陣のような模様が描かれていたりした。なんだか怖くなってきて、その本を元に戻し、帰ろうとすると、突然本棚の向こう側から、がらがらっと物音が聞こえてきた。本が大量に落ちたような音。
おそるおそる音がしたほうを除きこんでみる。すると床には大量の本が散らばっていた。相変わらずよくわからない文字で書かれている本ばかり。そしてその散らばった本の真ん中に梯子があってそこに一人の人がのっていた。私がゆっくり視線を上げ、その人を見上げると、その人と目が合った。
その人は25歳くらいに見える男の人で、エプロンをしているからおそらくこの図書館の人なのだろう。白髪のサラサラのストレートヘアを若干目にかかるくらいに伸ばしているが、その奥に見える瞳は吸い込まれるような黒。肌は白く、日本ではなかなか見ない見た目だが、瞳の色といい、顔つきは日本人らしい。
その青年は驚いたように少し目を見開いてこちらを見ている。
これをみて何もせず帰るのは申し訳ないので、声かけてみる。
「あの、だいじょうぶですか。」
「あ、はい、大丈夫です。いつものことなので」
いつものこと?うっかりやさんなのかなと思うが特にコメントしないでおく。
その青年は梯子を下りてきて、本を拾い始める。私もしゃがんで本を拾い、重ねて並べる。本棚まるまる3段分くらい落ちているので、結構な量だった。
「すみません。手伝ってもらって」
「いえ」
大体の本が並べおわったところで青年が私に声をかける。
「ありがとうございます」
「とんでもないです」
「僕本棚にしまっていくんで、適当に何冊かづつ渡してもらえますか」
「はい」
その青年は本を3冊片手にもって梯子を上る。私は5冊くらいづつ本をはしごの上の青年の渡して、青年がその本をしまっていく。これを何度も繰り返してあっという間に本棚に本が収まった。
「ありがとうございました」
「いえ、それでは私は帰りますね」
私は軽く会釈をして階段を下り、図書館を後にする。暑い日差しの中を家まで早足で歩く。まるであの図書館の中は日本ではないみたいな感じがしてつい15分程度しかいなかったけど 図書館にいた間、最近の暑っ苦しい気候をわすれるくらいその世界に引き込まれていた。
私は家に帰ってからもあの図書館のことを考えていた。
本と緑に囲まれた素敵な空間。そしてそこにいた白髪の謎の青年。
木漏れ日のように優しい雰囲気と、柔らかい声。
これが私と青年の出会いだった。
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