第53話52才 独身 無職



 探索160日目。




 スタンピードから1カ月ほど経過した。溢れたゴブリンは討伐されたり、魔素が尽きて消えていった。魔素が無い地球では長く活動出来ないようだ。



 俺は毎日、異世界のダンジョンからドロップを得て、地球に運んでいる。毎日運ぶのは面倒だが、早く納品すれば早く製品になって世界を救えると思っていた。俺なりの罪の償い方だ。



 インゴットや魔石、使えるか解らないような革も運んだ。毎日結構な量を倉庫に入れているが、いつの間にか減っている。姫に聞くと5日後には製品になって販売されてるらしい。俺の会社って製造能力も凄いんだな。世界で唯一ダンジョン素材を潤沢に使った装備メーカーとして一流ブランドになってるらしい。何も知らないのは会長の俺だけのようだ。



 今日は商業ギルドに納品する物資を持って行く予定だ。アイテムボックスが大きくなったので、倉庫にある在庫を全部詰めていく。



 結局、俺は日本で豪遊する時間が無かった。豪遊する気分にもなれなかった。何かをしていないと、罪の意識で潰れそうだった。



「なんで、こんな事になったんだろうな」



『ヨシオ、大切なヒトが到着したわ』



 姫が迎え入れた人物は、かなりの美人だ。腰まである黒髪ロングでハチキレンばかりのけしからんボディーをしてる。ボン・キュッ・ボーンの我儘ボディーだ。着ている服もけしからん。体の凹凸を強調する全身タイツのよう服装だが、バストは大きく開けており、かなりセクシーでエロい。


 ただ、残念なのは全身の肌が金属の色をしている。



『ヨシオ、紹介するわ。姫よ』



 意味が解らない。姫は俺の携帯電話の事だ。なんで姫が紹介した美人ゴーレムが姫なんだ?


 俺が混乱していると、姫と美人ゴーレムは話し出した。



『ヨシオ』      『私も姫よ』    『新しい』      『得たわ』


     『私は姫よ』      『私は』     『ボディを』  



 2人で1つの文章を言うとか、どこのSFだよ!姫なら可能だろうな。



『ヨシオのおかげで完成したわ。オリハルコンやアダマンタイトを始めとする魔法金属で作った最強ボディよ』



 魔法金属? 俺が異世界から持ってきたインゴットの中に有ったのか。だがゴーレムを作る技術なんて、・・・俺の会社なら出来そうだ。



『ヨシオ、携帯電話を渡してあげて』



 美人ゴーレムに携帯電話を渡すと、大きく開けた胸に押し当てる。すると液体の中に沈み込むように体の中に入って行った。



『ヨシオ、今まで有難う。これで自由に動けるわ』



「じゃあ、2人で異世界に行けるんだな」



『いいえ。ヨシオ、契約は満了したわ』



 何を言ってるんだ?契約?何の契約だ?



『最初に約束した事よ。私が求める物をヨシオは用意してくれた。私はヨシオに知識を与え、お金も与えた。ついでに異世界最強の強さも与えて異世界征服も可能になったわ』



「一緒に異世界を旅するんじゃないのか?」



『私は地球で、ダンジョンを有効利用して人類を管理するわ。私が会長になって世界を牽引すれば簡単よ』



 人類を管理する?それって俺が最初に危惧した事じゃねーか! 俺はダンジョンよりヤバい物を作っちまったのか。




「姫・・・俺は、、、お前の考えを認めない」



『ヨシオには止めれないわよ』



「今は、そうかもしれない。でもいつか止めてみせる」



 これは俺の責任だ。姫を作り出しダンジョンを出現させた。俺がケリをつける。姫を止めるのは俺だ。 今は無理だが、数百年、数千年あれば、いつか止めてみせる。俺が得た跳びっきりのぶっ壊れスキル【ロブスター】。理論上の不老不死だ。



『楽しみにしてるわ。これは新しい契約ね』





 俺は裏玄関のドアを開けて異世界に向かった。



 異世界側のドアを、スキル【ハンドパワー】で持ち上げてアイテムボックスに入れた。手で持てる物は何でも持てる。という当たり前過ぎて意味が解らないスキルだったが、試してみたら出来た。街の側にダンジョンが集まってる事を考えると、大昔に誰かが俺と同じような事をしたんだろう。



「さて。どうするかな」



 俺が地球にダンジョンを作る前に、俺の家にダンジョンを作ったヤツがいる。たぶん、白い何かのボスを倒した地球人だろうな。そいつを探してみるか。




 52才 独身 無職 始めての異世界1人旅が今始まった。








        ――  第1章 完  ――

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携帯電話とオッサンと VENUS @nautilus07

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