第50話ケーキ
探索122日目。
ケーキがドロップして欲しいと願っていた時もありました。今はそんな余裕が無い。
この鳥は、かなり厄介な相手だ。理由はくちばしから衝撃波と思われる何かを放ってくるので、近付いて来たら逃げるしかない。射程距離は100m程のようだが、攻撃が見えないので避ける事も出来ない。、
俺が投げる小石の射程距離は200mを越えているが、1投目を外したら逃げの一手だ。頭も良いようで、俺が追撃やカウンターを狙って投球動作に入るとすぐに逃げる。俺が背を向けると、また攻撃してくる。醜悪でしつこい!
『ヨシオ、鳥と遊んでないで、高い山に登るわよ』
「遊んでる訳じゃない。背中を向けると攻撃されるんだよ。俺だって鳥相手に”だるまさんが転んだ”なんてやりたくない!」
姫に指定された山に登るが、代わり映えの無い風景だ。大小様々な山があるだけで、人工物のような物は見えない。
『ヨシオ、ボスを倒しに行くわよ』
「姫、ボスがドコにいるか解ったのか?何もない砂漠だぞ」
『何を見ているの、山が有るでしょ。1つの山に1匹の魔物がいるわ。まるで縄張りね。だから一番高い山に向かうわよ』
鳥が上空を飛んでいるから、地上と対の関係に気が付かなかった。さすが姫だ。出来れば、後ろから攻撃してくる鳥への対策も教えて欲しい所だ。
今俺は、一番高い山の麓まで来ている。たぶん標高は1000m無いだろう。
「ギュルルルル!キュオオオオン!!」
山に登る前からボスを認識出来た。俺が認識したというよりも、ボスに威嚇された。
「姫、とても勝てそうにないぞ。どう見ても、あれはドラゴンだろ。俺は普通の人間だ。戦いにもならないぞ」
『一旦、宿に戻って装備を充実させましょう』
装備でどうにか出来るとは思えない。ミサイルでも無理だろう。
『ヨシオ、ダンジョンを出たら冒険者ギルドに生存の報告をしてから商業ギルドに行くわよ』
「商業ギルドか、前回の納品から20日以上経ってるからな。商品の減り具合も確認しないといけないか」
『それも有るけど、そろそろスキルオーブが手に入っていても良い頃だと思うわ』
でもなあ。いくらスキルが増えてもドラゴンには勝てないだろ。あれはもう怪獣映画だぞ。人間の力ではどうにも出来ないだろ。第一、戦うのは俺1人なんだ、無茶にも程がある。
「良く来た、ヨシオ君。前回納品分の在庫はかなり減ってしまった。次の発注内容をまとめる間少し待っててほしい」
俺が商業ギルドに着くと、ギルド長のオンスが倉庫の方から走って来た。この人いつも忙しそうに動いてるよな。こんな上司だと部下もサボれないだろうな。
「あんなに有ったのに、良く売れますね。もうこの街では必要無いくらい納品してると思いますが」
「ベアリングのおかげで、馬車の積載量も運行日数も改善されて、今では他の街の貴族にも売ってる。まだまだ需要に追い付てないんだ」
他の街まで売りに行ってるのか。ギルド長なのに、フットワークが軽いというか、行動力有り過ぎる。部下は苦労してるんだろうなあ。
「俺も儲かるので、頑張って売って下さい」
「注文とは別に、今日はこれを渡さないとな」
そう言って出して来たのはスキルオーブ。なんと131個だ。いったい、どこから集めて来たんだ? いや、貴族の不良在庫とは予想出来るが、使いもしないオーブをよく買い続けてたな。
「凄い数ですね。これは貴族からでしょうか」
「その通りだ。さすがに、もうこの街の貴族は持ってないだろう」
一昨日のあの死闘。体がボロボロなって本当に苦しかった。クソ不味いポーションを6本も飲むハメになった、それほど苦労した雪ダルマ戦で2個しかドロップしなかったのに、こうも簡単に131個もGETとは笑いが止まらないな。
ニマニマしながらスキルオーブをアイテムボックスに入れてると、次の注文票が用意された。相変わらず手際が良いな。
「納品は、ヨシオ君専用倉庫が開いてるからいつでも大丈夫だ」
そういうとギルド長は、職員を捕まえて指示を出し始めた。仕事が出来る人って凄いな。でも、この人の下では働きたくないな。サボれそうにない。
『ヨシオ、これから数日は、スキルを取得しながら街で必要な物資の調達と、特訓よ』
「本気でドラゴンと戦う気か?諦めて、違うダンジョンを探した方が良い気がする」
『準備万端で戦っても勝てないなら、他のダンジョンを探すわ。何もしてないのに諦める事なんてしないわよ』
姫の言ってる事は正論だ。凄くマトモな事を言っている。正しい事は俺にでも解る。
ただ、1対1でドラゴンと戦うのは間違ってるだろ!
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