第43話一発
探索88日目。
このダンジョンに入ってから14日目だ。また遠くに山脈が見えたので急いで移動して登った。山脈を越えた向こう側の景色は、特に変わらない。
緑のキツネは、また1回り大きくなって確実に強くなった。5匹くらいなら一瞬で倒せるが、20匹に囲まれると結構ヤバい。
「姫、敵が強い。そろそろ帰らないか」
俺はこのダンジョンで初めて、ポーションを飲む程のケガを負ってしまった。
『イチゴを諦めれば問題ないわ』
ケガの原因は、イチゴに目が眩んで無茶をしたら。単調な作業の繰り返しで何も楽しみが無い。唯一、時々ドロップするイチゴだけが楽しみなのだ。
「これは仕方が無い。仕方が無い事なのだ」
『随分と余裕な発言ね』
姫は冷静だ。物欲にまみれて戦っている俺とは違う。
探索89日目。
このダンジョンに入ってから15日目。目の前にいるキツネは見るからにヤバい。生物として異常だ。伏せた状態でジッと俺を見ているが、立つと馬よりもデカいだろう。なにより、口から炎が出ている。
「あれで火傷しないのか。呼吸器系は無事なのか」
『ヨシオ、炎を吐く攻撃が有ると思うわ。気を付けなさい』
それは俺でも予想出来る。体内から引火ガスを放出し口元の炎で着火するんだろうな。スコップでの近接戦の俺とは相性が悪い気がする。
次の瞬間、予備動作無しに炎を吐いて来た。俺の顔面を狙ったエゲツない攻撃。思わず右手で顔を庇た。右手に炎が着弾したと同時に広範囲に炎が広がる。思わず倒れこみ、地面を転がって炎を消す。地面を転がり、這いずって、キツネとの間合いを確保する。
「最悪だ。先手とられて、火だるまにされて。装備もボロボロだ」
異世界で作った装備には大きなダメージは無いようだが、地球から持ち込んだナイロン製の服やリュックは致命的だった。
『ヨシオ、あの攻撃は火炎放射器というより、燃料気化爆弾に近いわ』
なんでも良いが、こんな化け物と戦える訳が無い。俺は普通のオッサンだぞ。
『今の装備では勝てないわ。退くわよ』
落としたスコップや背負えなくなったリュックを回収して戦線を離脱した。化けキツネは追って来る事は無かった。
一目散に山脈まで戻って装備を確認する。地球産の物はどれも酷い状態だった。バッテリーも何個か落としたようだ。
『可燃性液体を着火した状態で飛ばし、着弾で液体が弾けて一気に燃えるようね』
冷静な分析だ。化けキツネにジュネーブ条約を説教して欲しいくらいだ。
探索93日目。
このダンジョンに入ってから19日目。ダンジョンの入口まで戻って来た。
帰りは早かった。緑のキツネをほぼ無視して走った。腹が減った時だけ狩り、寝る間も削って走った。
「はあ。生きて帰って来れた」
『良かったわね。【美肌】と【キューティクル強化】で服装以外は普通よ』
無駄なスキルが無駄に仕事をしたようだ。
「姫、こんなボロボロの服で人前を歩くのは嫌なんだが」
『問題ないわ。今は夜の10時よ。暗くて誰にも見えないわ』
夜の異世界は異様に寒い。そんな夜道を裸同然でスキルを使って走る。オマケに19日間体を洗てないので臭いも凄い。
”疑わしきは罰する”が通例の異世界だ。見つかったら一発でアウトだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます