第38話無能

 探索72日目。




『ヨシオ、起きなさい。サインをしたら帰るわよ』



 どうやら話がまとまったようだ。何の契約のサインかも解らないがサインをする。


 姫は、どんだけ交渉したのだろう。サインする書類が山のようにある。


 サインをしていると朝食のルームサービスが届いた。外国人たちは、朝食を摂りながら何度も電話をしている。食べながら電話するって、凄い技術だ。この人達にとっては日常なのか?



「あの人達、夜通し話し合いをしてるハズなのに、なんで元気なんだ」



『自分の名を歴史に刻むチャンスが目の前にあるからよ』



 へー。 仕事が出来る人って凄いな。俺は同じ部屋にいたけど、爆睡しかしてない。




 サインが終わり、握手をして帰路につく。また2時間の運転だ。



「姫、今回の契約の内容って何」



『金属のドロップを全部売ったわ』



「でも、半分近くは”鉄”とか、ありふれた金属だろ」



『ヨシオ、ドロップはどれも”単一元素鉱物”よ。限り無く不純物が入ってないのよ』



「地球でも同等の物は作れるだろ」



『鉄なら作れるわ。あのサイズで10万円前後ね』



「ん。鉄って一番安いと思うけど、それでも10万円の価値なのか。じゃあ全部でいくらになったんだ」



『231億円よ』



「・・・」



 数日前までコンビニ店員だった俺には、理解出来ない金額だ。


 俺としては当初の目的、ホテルのメシが食えたので満足だ。




 一方。ヨシオが去ったスイートルームには10人の外国人が残されていた。


 その中でイギリス紳士風の年配男性が口を開く。



「一体、彼女は誰なんだ」



 その言葉に、隣に座ったいた女性が答えた。



「限りなく神に近い存在」



「フフフ。そのような冗談を話したい訳ではない」



 年配の男性は、若い女性を嗜めるように言う。無理もない。女性は腰や足はスラっとさせ胸を強調する服装で、控え目に言ってもセクシーなのだ。特徴的なのは片耳に付けたイヤリングだ。一言でいうなら場違いな服装である。



「持ち込まれたサンプルをこの部屋で再度検査した結果はあなたも見たでしょ。あの機器は私が1年前に設計した最新の物よ。まだ世界にも10台と無いわ」



「ああ。検査結果は見た。それを疑ってはいない」



「私も検査結果については、以前の同僚から聞いていた通りだった。信じられない結果だが、予想は出来ていた」



「それにしては、随分と狼狽した様子だったが、他にもなにかあったのか」



 彼女は一呼吸おいて、話し始めた。



「あなたは、スタートレックを知っていますか」



「たしか、米国のテレビドラマや映画だったかな」



「その中で出て来る種族、つまり宇宙人で、ベイジョー人という種族がて、このイヤリングはその種族特有の物なのよ」



 彼女は右耳のイヤリングを男性に見せるように説明を続ける。



「たぶん、イヤリングを確認しての事だと思うわ。私にベイジョー語で話しかけて来たのよ」



「ん。それは空想の中の種族の言語を使って話しかけて来た。という事か」



「そこまでなら、リサーチの能力が凄い。私以上の人脈を持っている。というだけの話なんだけど・・・」



「それだけでは、無いと?」



「クリンゴン語のような既に文法も単語も確率されている架空言語もあるけど、ベイジョー語は違う。未だ開発途中の言語なのよ」



「つまり、完成してないはずの言語を流暢に話したと?」



 彼女はうつむきながら答える。



「あらゆる可能性を考えたけど、私が質問できたのは1つよ。あなたは神か?と」



「それで、先ほどの言葉か」



「彼女は、私は”預言者”ではない。と答えたよ」



「預言者とは、どういう意味だ」



「ベイジョー人にとっての神を”預言者”というのだけど、彼女はジョークを言ったつもりなのかもね」



「神ではない、か・・・。 だが、代理人として来たあの男はなんだ?無能以外に言いようがない」



「フッ。神の使徒は無能の方が使いやすいのかもしれないわ」



「彼女とは電話越しでしか会話が出来ないとなると、あの無能が窓口なのだ。今後が思いやられるな」



「無能は無能なりに自分の立場を理解していると思うわ。だから一言も話そうとはしなったように見えるわね」



「そうかな。ただ眠っているだけで、何も考えていないように見えたが」



「無能の方が、私たちも扱いやすくて良いわ。今後も彼には無能でいて貰いたいわね」

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