第34話人柱
「随分とダンジョンを研究されているようで驚きました」
「当然じゃ、街が出来た頃にスタンピードが起こったのじゃ。それ以来、ダンジョンの研究は途絶えた事が無いのじゃ」
「ダンジョンから、ドアを通ってあふれて来たんですか?」
「記録では、ゴブリンが大量に襲ってきたそうじゃ」
マジか・・・。ゴブリンもいるのか。 いや、ゴブリンの事より、白い何かが俺の家にあふれて来ないだろうな。あんなのが地球に解き放たれたらヤバい。
「魔物がリポップする事は知っておるか? その増え方もダンジョンごとに違うのじゃが」
「魔物とは、倒すと黒い粒子になって消える動物の事ですか?」
「その通りじゃ。それらを総称して魔物と呼んでおるのじゃ」
「ダンジョンごとにリポップの条件が異なるのですか」
「1匹倒すと1匹リポップするダンジョンもあるのじゃ。これは常に同じ数の魔物がいるのであふれる事はないのじゃ。じゃが、一定の時間で魔物が増え続けるダンジョンもあるのじゃ。最初に100匹の魔物がいて、10日ごとに100匹リポップするダンジョンもあるのじゃ。討伐しなければ、いずれあふれるが、毎日100匹たおせば良いだけじゃから割と簡単に管理できるのじゃ。困るのは、ゴブリンのような場合じゃ。最初に100匹の魔物がいて、10日毎に5倍に増えるとしたらどうじゃ?10日後には500匹になり、20日後には2500匹になるのじゃ。あっという間にあふれるのじゃ。」
「たしかに一度あふれると困りますが、逆に考える1度全ての魔物を討伐してゼロにしたら、安全な世界になりませんか」
「当時もそう考えたようじゃ。氾濫を起こした数十年後に実際に討伐したそうじゃ。しかしごく少数じゃがリポップしたそうじゃ。何度、完全に討伐をしてもリポップするのじゃ。そこで解ったのが、通常ではたどり着けない場所に1匹いる。ということじゃ。この考えが元となって、ダンジョンにはボスがいる。という事が定説になったのじゃ。ボスを倒すと、本当にリポップしないのかは未だに確認できておらんのじゃ。もしかしたら、別の魔物がリポップするかもしれん。もしかしたら、別のリポップの仕方になるかもしれん。もしかしたら、ダンジョンが消えるかもしれん。誰にも解らんのじゃ」
本当に良く研究している。ここまで解かるのに何年かかったのだろうか。
「昔の事なのに、良く知ってますね」
「わらわは神官じゃ。歴史を紡ぐ為にファオヴォアジャオを食べ続けておるのじゃ」
「え?じゃあ、見た目通りの年齢ではないと?」
「レディに年を聞くとは恥知らずじゃな。わらわは最近672才になったばかりのレディじゃ」
それはレディとは言わない、言えない、言いたくない。
「時間があまり過ぎて、本を読んでいるのか」
「勘違いするでない。時間は限られておるのじゃ。書物は1000年程で読めなくなるのじゃ。ここに所蔵されている書物を全て写本するのが、わらわの最初の仕事じゃ」
図書館の本を全部手書きで写本とか、普通に地獄だ。終わる気がしないな。いや、終わるまで死ねないのか。やっぱ地獄だな。
「今日は色々と話が聞けてよかった。ありがとうございました」
「うむ。また来ると良いのじゃ。わらわが暇な時なら話し相手になってやらん事もないのじゃ」
「姫、ダンジョンの事とか聞けて良かったな」
『リポップの件は長期の観察が無いと判明しない事案なので来たかいがありました』
「そう言えば、神官なのに、神に祈ってる感じはしなかったな」
『ヨシオの感覚で説明するなら、たぶんあの神官が神であり信仰の対象なのでしょう。歴史を伝えるという目的の為に、死ぬ事が許されない人柱です』
「人柱か・・・。なんだか悲しい生き方だな」
どうして彼女はそんな役目を引き受けたのだろうか。周囲からは”神官様”と呼ばれるだけで、名前を呼んでくれる人がいなくなったのか。今では名前を知っている人もいないかもな。長く生き過ぎて自分自身でも名前を忘れてしまったのだろう。
『ヨシオ、商業ギルド長への義理も果たしたのでダンジョンへ行くわよ』
俺が考えた所で彼女を救う事は出来ない。俺は俺が出来る事をするしかない。
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