第32話残念
探索55日目。
馬車に乗り向かった先は神殿だった。外観は神殿というよりは図書館だ。中に入っても図書館だ。書物ばかりが並んでいる。神殿にしては神に祈る場所がない。
最奥の部屋に案内されたが、客室として殺風景過ぎる。
「金貨2枚の肉を買う割に、他には金を使わないようだな」
「おぬしも、わらわくらいになれば同様になるのじゃ。さぁ、立ってないで座るのじゃ」
後ろから声がして振り向くと女性が立っていた。
背丈は120cm位で、きつめの顔立ちなのだが、かなりの美人で気が強そうな雰囲気だ。スタイル抜群で銀髪のストレート。20才前後に思えるが低身長の為、小学生にも見える。
だが、語尾が「のじゃ」とは。 姫、どんな翻訳をしているのだ。折角の美人が台無しだ。
「はじめまして。ヨシオと申します」
「うむ。わらわは神官をしておる。名は、、、何じゃったかな。忘れたのじゃ。神官で良いのじゃ」
姫の翻訳がガッカリなのではなく、この美人がガッカリだったのか。自分の名前を忘れるって何?病気なの?神様に仕えたら名前を失う習慣でもあるの?
「・・・では、神官様。どのような用件で呼ばれたのでしょうか」
「会いたかったからじゃ」
「それだけですか」
「うむ。ファオヴォアジャオを大量に倒した者の顔を見たかったのじゃ」
白い何かの名前は覚えてるのに、自分の名前は忘れるのか。色んな意味で残念。
「背が高いだけの普通のオッサンです。ガッカリしましたか?」
「何を言ってるのじゃ。会えて良かったのじゃ。書物で知ってはいたが、実際に会えるとは思ってなかったのじゃ」
「ん?書物に俺の事が書いてあったのか?」
「たぶん、おぬしの事ではない。昔の書物にな、非常に強いその者は高身長であった。と書いてあったのじゃ。それでどのくらい高いのか見たかったのじゃ」
「俺は特に強いとは思いませんが」
「おぬしの基準からしたら、そう思えるじゃろうな。 まあ、折角来たのじゃ何か聞きたい事はないか。ここにある書物の大半は、わらわの頭の中に入っておるから色々答えてやるのじゃ」
図書館丸ごと暗記した反動で自分の名前を忘れた、とでも言うのか?それとも教えられない理由があるのか?
「では、神官様の名前を教えて下さい」
「のじゃあ、それは書物には書いてないのじゃ。おぬしは意地悪なのじゃ」
神官様は、ジトーとした目で俺を睨んだ。お子様サイズだが、だまっていれば美人に見れる。
聞きたい事か。んーーー。
「ダンジョンとは、何ですか?」
「ダンジョンは1つの世界じゃ」
神官は、待ってました!と言わんばかりの笑顔で答えた。
「1つの世界?こことは違う別の世界だと、どうしてわかるのですか?」
俺は姫から教えられたけど、この文明でそれが解るのか?
「天文学を知っておるか?簡単に言えば、空を見て星を見る学問じゃ。この大地は太陽の周りを回っておるのじゃ。大地は平らではなく、巨大な球体の表面なのじゃ。おぬしに理解出来るか少々不安じゃが続けるぞ」
正直驚いた。メガネが無い文明だから、たぶんレンズも無い。この惑星には月も無いのに、よくそこまで学問が発展したな。
「じゃが、ダンジョンの中には、完全に平面の大地がある。そのダンジョンでは天文学は全く無意味じゃ。理の異なる世界という意味で、別の世界と認識しておるのじゃ」
「どのようにして、大地が平面だと判断したのですか?」
神官様は、少し残念そうな顔で説明続けた。
「高い所に登れば、遠くが見える。これは大地が球体だから起こるのじゃ。大地が平面じゃと、見える距離は変わらんのじゃ」
そうなの?そんな簡単な事で解るの?知らなかった。
『木に登らせた意味が解って無くて残念』
姫に言われて思い出した。電波が遠くに届くようにって言われたな。あれもそうだったのか・・・。これ以上続きを質問したら俺がアホに思われるな。気持ちを切り替えて違う質問をしよう。
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