第31話尊敬
探索54日目。
昨日の商業ギルドとの交渉は、一旦保留となった。姫が金額面で折れないのだ。一応、交渉しているのは俺なんだが、内容は姫が決めてる。
ウチの姫がハイスペック過ぎて俺の存在価値が無い件。 どっかに有りそうな本のタイトルだ。
今日もダンジョンに来ている。どのドアに入ろうか迷っていると、ケガをしてボロボロになった人が出て来た。
「あのドアだけは、やめよう」
『ヨシオ、早くドアを開けて入りなさい』
勘弁してくれ。あんなケガするような所には、入りたくない。
「どのドアにしようかな」
『ヨシオ、私に説得されて入るか、自ら進んで入るかのどちらかよ』
もう入る事は決定事項ですか。
「俺、ケガしたくないんだけど」
『問題無いわ。ポーションが有るでしょ』
なんてこった。”ケガしても治すから大丈夫”と言われて、安心してケガをしく行く人はいないぞ。
白い無機質なドアを開けると、そこは荒野だった。地面はゴツゴツした岩や石だけで植物は見当たらない。天井は無く真っ白い空が広がっている。
「いきなり襲われると思ったが、何もいないな」
『残念ね』
どういう意味の”残念”なんだ。姫の鬼畜っぷりは最初からだ。気にしない。気にしない。
これまでに大勢の人が同じ場所を歩いたからか、なんとなく歩きやすい場所が道のように続いてる。暫く歩いたが、自分の足音と風の音しか聞こえない。
「石や空がもっと赤かったら、火星と言われても納得しそうな風景だな」
『ヨシオ、残念ね。たぶん、ここは惑星ではないわ』
「何を言っているんだ?」
惑星じゃないなら何だ。 衛星か。 恒星や彗星で無いのは俺にも解るぞ。
『この地面は球体の表面ではなく、平面よ』
「・・・」
有り得ないだろ。なんだ、そのファンタジーは。
『ヨシオ、構えなさい。来たわよ』
あの冒険者に大ケガさせた犯人だろう。気合を入れないと俺もヤバいぞ。
バコン
バコン、バコン
バコン、バコン、バコン、バコン
バコン、バコン、バコン、バコン、バコン、バコン、バコン、バコン
今、俺は、モグラ叩きの真っ最中だ。敵は地面から出て来た。出ると同時にスコップで叩いている。
勿論、出て来るのはモグラではない。20cm程の松茸のような何かだ。カラフルな色で気持ちが悪い。
「姫・・・ヤバいぞ。こいつ1匹狩ると2匹出て来る。2匹狩ると4匹出て来る。倍々ゲームで終わりが見えない」
『ヨシオ、チャンスタイムね』
制限時間があるなら、チャンスタイムと言えるだろう。だが、これに終わりがあるのか?ドロップを拾う暇も無く、黙々と叩く。
「姫、何時間経った?」
『まだ、3時間よ』
もう腕がパンパンだ。休む事なくスコップを振り回している。流石にもう限界だ。
「姫、逃げよう。ドアまで走ろう」
『仕方が無いわね。ポーションを飲んで続けなさい』
姫の鬼畜っぷりは最初からだ。だが、本当にポーションを飲む事になろうとは・・・。
ポーションランク1を2本消費して、全ての松茸を黒い粒子に変えた。
「もう動けない。こいつら多過ぎだろ」
『7時間で終わったわね。4095匹しか狩って無いわよ。ドロップ拾って帰りましょう』
ドロップは、それぞれ色が違う2cmくらいの立方体だ。さわると金属っぽい感じがする。
「姫、もしかして、これって」
『たぶん、金属のインゴットよ。予想通りなら”単一元素鉱物”ね』
「インゴットと言うから、もっと大きいと思ってたが小さいな」
『種類を確かめるから、ギルドに売らず宿に持って帰るわ』
宿に戻ると、商業ギルドからの伝言が預けられていた。明日の朝、迎えに来るそうだ。
もう今日は色々あって疲れた。明日の事は、明日考えよう 。
因みに、ポーションランク1の味は、センブリ茶にゴーヤを入れて蜂蜜を加えたような味だった。
ランク2の味は知らないが、店長よくこんなの飲んだな。今更ながら尊敬するよ。
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