第30話コペルニクス

 探索53日目。




 今日で最初に街に持ってきた塩10kgが全部売れた。まだ拠点には塩は沢山置いてある。そろそろ塩以外の商品も売り始めるらしい。


 なぜ、最初は塩しか売らなかったのか。そして、なぜ今のタイミングで商品の種類を増やすのか。俺には全く解らない。



『結構単純な理由よ。1つ目は貴族を始めとする権力者の動き。2つ目は街と宿の安全性の確認。3つ目はダンジョンよ』



 姫の話は長かった。文字数制限出来ないのか。と聞きたくなる程長かった。



 要約すると・・・


 塩を売却したその日の内に、塩は貴族の元へ届くと思われる。悪い事を考えるような貴族なら、直ぐにでも接触か圧力があったと思う。しかし未だに無い。ここの貴族がマトモなのか、商業ギルドが抑え込んでいるのかは解らないが、良い傾向と言える。


 もしギルドが無理矢理抑え込んでいるなら、そろそろ街中で襲って来るだろう。もしくは、宿を買収して部屋を家宅捜索されていただろう。これらも未だに無い事から、たぶん”貴族がマトモ”であると判断出来る。


 この街はダンジョンに頼っている。ドロップによるダンジョン経済が確立している。逆に言えば、ドロップしない物は高くても良く売れる。街の散策で解った事は、人の手で作った物は高い。例えば、服や防具は高い。食材は安いが調理済みの料理は高い。


 これらの事を総合的に判断すると、街の税金は相当高い。しかし、大量にドロップを得る為にダンジョン関係は税金が安い。


 体力に自信がある者や若い世代の者は、税金が安く儲けが大きいダンジョンに向かうようになる。


 一般市民の税金を上げても暴動は起きない。肉体的に強い人はダンジョンで得をしている側なので暴動には参加しない。それどころか鎮圧する側に雇われている。


 ガンガン税金を上げる事が出来るので、ここの貴族は相当裕福に暮らせている。市民の事なんか眼中に無い。一部の商人が大儲けしても興味すら持たない。


 結論、”貴族はマトモではない”ので、気付かれる前に大儲けしよう。



 なんというコペルニクス的転回。そして、まとめても長すぎる。これが”結構単純”と言い切る姫は凄い。俺には単純とは思えないし、説明を聞いても半分も理解出来たとは思えない。




 姫の話を聞くだけで半日が終わった。昨日のダンジョン探索よりも疲れた。



「姫、午後から何をするの」



『商業ギルドに商品のサンプルを持ち込んで交渉よ』



 ああ。そんな話をしてた。説明が長すぎて完全に忘れてた。




 商業ギルドに入ると、ギルド長から話があると言われた。こちらも商品サンプルの売り込みがあるので丁度良かった。



 ギルド長の話は、先日の白い何かの肉を納品した件で、どうしても会って欲しい人がいるようだ。



「ギルド長、まさか私が納品したという情報を売ったのですか?」



 商業ギルドが信用出来ないようなら、商品サンプルの話も無しだ。状況を見極める必要がある。



「そんな事はしていない。一度に大量に持ち込まれた為に、購入された方から聞かれたのは事実だが、あなたの名前は教えてません」



「購入した人が私に会いたいというのですか?私は貴族とは会いたくないのですが」



 1つ金貨2枚もする肉だ。それを大量に購入するような人は、絶対に貴族だ。姫はこの街にマトモな貴族はいない。と言っている。会えばトラブル間違いなしだ。



「いえ、貴族ではありません」



「じゃあ、断っても大丈夫そうなので、会いません」



「いえ・・・ 貴族ではないのですが、貴族街に住まわれている方で断る事は出来ません」



「貴族でないのに、貴族街に住んでる? なぜ断れない?」



「立場的には貴族よりも上の方で、神殿で歴史の管理をされている神官様です。商業ギルドとしても、どうかお会いして頂きたい」



 俺が会いたくないと言っただけで、ギルド長が俺に頭を下げなければならないような人物か。ギルド長は一流の商人のはずだ。この件ではギルドもギルド長本人も一切儲けが無いはずなのに、頭を下げるのか。



「解りました。その方に少々興味が出ました。日時が決まったら連絡を下さい」



「はあ、助かります。連絡は宿の方へ致します」



「それはそうと、別件で話があるのですが。今後私が取り扱う商品を見て頂けますか?」

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