第20話サボろう
『諦めが付いたようネ。それじゃあ・・・』
「チョッ、チョット・・・ちょっと待ってくれ」
ヤバい。話が終わってしまった。120km走る事になる。それは嫌だ。考えろ、考えろ!何か良い方法は無いか。
「まだ、聞きたい事があるんだが・・・」
『時間稼ぎじゃなくて、本当に聞きたい事があるなら良いわよ』
完全にバレてる!!バレてても良い。何とか会話を続けて、走るのを阻止しよう。
「あの街の周辺って、殆ど平らだったよな」
『そうネ。森を含めて高低差は3m以下よ。見える位置に山も存在してないわ』
「そうだ、山を見てない。川も見てない。川が無いのに街が作れるのか?」
『街には噴水のような設備が有ったでしょ。たぶん街全体では数百カ所あると思うわ』
「だから、その水はドコから来てるんだ」
『地面から勝手に噴出してるのよ。地球でいうならオアシスって言えば解かるかしら』
「え?あの街全体がオアシスなの? 街全部を潤すだけの水量があるのか」
『何を言ってるの。水が噴出しているのは、森を含めて全ての土地よ』
「はあ? そんな事が有り得るのか?」
『よく思い出しなさい。異世界に行って、雨の日があった? 森の地面が所々抜かるんでなかった? 森の中でファオヴォアジャオ以外の生物を見た?』
言われてみれば、その通りだ。異世界は何時も晴れてた。霧雨程度の雨は何回かあったが、ドシャ振りは経験してない。雨が降ってないのに、森の地面は所々抜かるんでいた。たまたま湧き水が出てる所なのか、と思って気にしてなかった。最初の頃は100mくらい歩く度に足を捕られて歩き難かった記憶がある。
森で白い何か以外の動物を見ていない。いきなり俺を襲うから肉食動物かと思ったが、餌となる動物がいなかった。餌という意味では、食べられそうな果実や木の実も無かった。生態系が地球とは全く異なってる。
まるで異世界だ。 本当に異世界なんだけど。
不思議な世界だ。ファンタジーだから何でも有り。と言われたら、それまでなんだけれど。
「思い出してみたが、全てが不思議な世界だ」
『別に不思議で無いわ。たぶん、あの大地は巨大な大陸よ。ユーラシア大陸よりも大きいかもしれないわ。もしかしたら、パンゲア大陸に匹敵するかもしれないわ』
「ユーラシア大陸は聞いた事あるが、パンゲアって何?どこに有るの?」
『ヨシオ、そこから説明が必要なの? 常識が無いって恐ろしいわネ』
姫の求めてる常識の水準が高過ぎるだろ。コンビニ店員歴40年で、そんな単語は1度も聞いた事が無い。
『惑星は、彗星や小惑星が衝突を繰り返して出来るのよ。完全な球体なんて出来ないし、重心だってズレるわ。出っ張った所が陸地になるのよ』
「じゃあ、低い所が海になるんだな」
『惑星にたまたま海が出来た場合、高確率で海と1つの超大陸になるわ。その後に地殻変動で大陸が分かれて行くのよ』
「その超大陸がパンゲアなのか? でも地殻変動で分かれるんだろ?」
『以前にも説明したけど、この惑星は小さいの。惑星の核やマントルも少ない。結果として火山活動が少なく、大陸プレートも殆ど動かないの』
姫がハイスペック過ぎる。これが常識の範囲なのか。聞いてるだけで頭が痛くなる。
「なるほど。そこまでは完全に理解した」
全く解かってません。でも話を続けないと走る事になる。ガンバレ、俺!
『超大陸の内陸は、海から遠すぎて湿った空気が届かない。雨が殆ど降らない砂漠になるのよ』
「雨が降らなかった理由は、それか。でも、森が有ったぞ」
『この惑星の50%以上は氷で覆われているわ。大陸の端は北極か南極の氷と接触して大地の上に巨大な氷が載っているの。氷の量が膨大過ぎて、最下部は自重で融解して大陸の地下水になってるのよ』
「姫、それ全部推測じゃないか」
『証明は簡単よ。炭素年代測定をすれば良いのよ。サンプルを集めるのに、ヨシオには2年か、3年、惑星3周分くらい走り続けてもらうだけよ』
ヤベー。何なんだこの話の展開は。120km走るのが嫌で悪あがきしたら、惑星を3周も走る事になりそうだ。
「いやっ、そこまでする必要は無いぞ。そこまで気になる事でも無いし・・・」
『そう。残念ネ』
ちょっとサボろうとしただけで、惑星3周とか。どんな鬼畜だ。それでも話を続けないと・・・120km走る事のはイヤだ。
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