第15話スキルホルダー



 探索35日目。




 白い何かを狩り続けた。俺にとって白い何かは、もはや敵ではない。 


 白い何かは、俺を見ると何も考えずに突っ込んで来る。タイミングを合わせカウンターでスコップを振る。これだけで黒い粒子に変わる。簡単なお仕事だ。


 永遠と走る事以外、という注意書きは必要だが。



「姫、もう冷蔵庫に肉が入らない」



『明日、街に売りに行きます。入らない分はヨシオの食料として冷凍庫に入れなさい』



 ここ数日、俺の食料は異世界産だ。6日前に異世界の街で購入した野菜類も、昨日で食べ終わった。勿論、主食は白い何かの肉だ。


 1つ食べると1年寿命が延びると聞いたが、本当か解らない。解っているのは異世界の1年は300日らしい。勿論、姫情報だ。


 公転周期が地球よりも早く、恒星からの距離も地球に比べて近い。恒星との距離が近いと惑星の温度は上がる。だが、異世界の平均気温は地球よりも低いと思われる。何か不思議な力が働いているのか?と思ったら、『恒星が小さいだけ』と言われた。


 既に50個以上、白い何かの肉を食べている。本当に俺の寿命が延びたら、そのうち地球での生活は出来なくなるだろう。食べない方が平穏な生活が出来ると解ってはいても、空腹には耐えれない。


 以前、実験に協力頂いたコンビニ近くの野良猫さんに大量に与えて寿命が延びるか試そうとも思ったが、野良猫だけに現在の年齢が解らないので断念した。


 もしもの時は、完全に異世界に移住するしかないな。






 探索36日目。




 異世界の街へ行って白い何かの肉を売る。


 結局、肉は276個集まった。その内260個持って出発する。肉は1個250gだが、これだけの量になると6.5kgになる。結構な重さだ。当然40kgの荷物も背負っている。



『ヨシオ、来たわ。構えて』



 もう肉は要らないと思っても、向こうから突っ込んで来る。



「あれ?」



 黒い粒子が霧散したが、肉は現れなかった。



「これ、スキルオーブか?」



『そうね。使って良いわよ』



「街に持って行って売らないか?」



『そんな壊れやすい物を持って、森の中をあと15kmも歩くなんてヨシオには無理よ』



 姫は俺の能力を俺以上に理解してる。姫はスキルを取得してハイスペックに進化した。俺もハイスペックになる時が来た。


 内心は超ワクワクである。俺は思いっきりスキルオーブを破壊した。



「・・・なんだ? ・・・ん?」



 言葉では無い何かが頭の中に入って来る。



「ああ。これ移動系のスキルなのか・・・な?」



 異世界探索から36日目で俺は、地球人で初めてのスキルホルダーになった。




 スキルホルダーに進化した俺の移動は早かった。街までの残り15kmを40分で走破した。



「なんでだあ!なんで【移動能力上昇】スキルなんだ!!」



『良かったわネ。これでドアから街まで1時間で移動出来るわ』



 確かに森の中を時速20km以上の速さで走るのはスゴイ事だ。それも40kgの荷物を背負っての移動だ。オリンピックに出たら間違いなく金メダルだ。



「俺が求めていたスキルと、なんか違う」



『知らないわよ。日頃の行いかしら』



 移動系のスキルなら、転移とか瞬間移動が良かったな。そんなスキルが有るのか知らないけど。

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