第14話5分



『アポは取ってるわ。話は全部私がするからヨシオはインカムを付けてるだけで良い』



「・・・はい」 俺は考える事を放棄した。



 インターフォンを鳴らしたら、中から出て来たのは男性。インド系?アフリカ系?良く解らない顔立ちの年配だ。姫は聞いたことも無いような言語で会話を始めた。


 いつの間にか2人だけの世界に入っている。俺は居ない者として扱われているようだ。・・・寝てて良いかな?


 途中、ギルドカードを渡すように言われた。



 3時間程経過しただろうか。姫から『ヨシオ、帰る。起きなさい』と言われた。俺は眠っていたようだ。


 帰り際にギルドカードを返してもらうと、少し角が欠けていた。




 自宅に戻る車中で、姫に聞いた。



「姫、今日は何を調べてたんだ?」



『ヨシオ、色々解ったわ。これからの行動も多少の予定変更が必要ね』



「俺は最初の予定すら聞いてないが」



『そうね。丁度良いから今日の事も説明するわ』



 姫の話は長かった。


 ギルドカードの素材が鉄とアルミの合金だった。アルミの精錬には大量の電力が必要で、異世界の文化水準では実用化不可能と思われる技術だ。なぜ異世界でアルミが実用化されているのか。


 因みに、あの外国人は趣味で分析器を所有している奇特な人らしい。スワヒリ語での会話が楽しかったのか、無料で検査をしてくれたらしい。



 金貨と銀貨の含有率を調べると、金貨は約90%で銀貨は約99%だった。多少の個体差も有った。地球の硬貨よりも含有率は若干低いが、塩が貴重な異世界の技術では大量製造不可能なハズだ。



 この事実から、姫が導いた結論は”単一元素鉱物”が出土する。という地球では有り得ない結論だ。


 裏付ける証拠として、塩が無い事も言っていた。塩は塩素とナトリウムの化合物で、ナトリウム金属としてなら出土する可能性はある。しかし出土と同時に空気中の水分と反応して燃える為、塩に化合する時間的余裕が無い。



 もっと詳しい説明をされたが、俺の頭では理解できなかった。



 重要なのは、今後の予定だ。


 数日以内に、出来るだけ多くの金貨と銀貨を日本で売って日本円を取得する。但し、売るのは1度だけ。その後、硬貨は売らない。これは国から目を付けられないようにする為だ。


 異世界は金本位制のようなので、金貨が消えても大きな問題にはならないらしい。これを日本で行うと経済的なテロ攻撃として認識されるらしい。



 日本の家を維持するライフラインの費用を6カ月分以上貯める事が出来たら、本格的に商売を開始する。勿論、異世界でも充分発電可能な装置を日本で購入し、異世界に設置出来れば効率は上がる。問題は森だ。背負って移動できる物資の量には限界がある。自転車もバイクも馬も森の中では有効ではない。


 姫の頭の中には、その後商売で取り扱う予定の商品候補がいくつかあるらしい。



 今日1日で、俺も解った事がある。


 異世界に行かなくても、姫がいれば日本でも簡単に金儲け出来そうだ。


 だが、俺が最初に投資した全財産42万円は異世界から回収するけどな!






 探索31日目。




 俺は朝から森の中を走りまくっている。



「姫、5分で良いから休憩させて」



『いいわ。5分でバッテリーの交換をして』


 それは休憩とは言わないと思う。効率的過ぎて、マジで鬼畜。どうして朝からこんな酷い目にあっているかというと・・・




「おはよう。姫、今日の予定は?」



『ヨシオ、まずは金貨を集める為に売る物を用意します』



「塩を売るんだな。買い置きしていた塩を売るのか」



『違います。残りの塩500gでは少ないです』



「塩は安いから買い足せば良い」



『もう少し物事を考えて下さい。何も後ろ盾の無い商人が大量の塩を売り始めたら、間違いなくトラブルに合います』



 政治的な権力者が圧力をかけて来る程度ならまだ良いけど、暗殺者が来るのはイヤだな。俺はラクをして生きて行きたいんだ。暗殺者とは無縁でいたい。



「じゃあ、何を売るんだ」



『ファオヴォアジャオの肉を売ります。異世界調達物資を異世界販売するなら大きな問題にはなりません』



「多い日でも15匹くらいしか遭遇してないけど」



『問題ありません。今回は私が誘導します』





 そして現在、白い何をの肉を売る為に調達をしてる最中だ。


『5分経ったわ。まだバッテリー交換終わらないの?』



「・・・もうすぐ終わるから・・・」




『再開するわ。2時の方向、距離340m』


「・・・」




『ヨシオ、次。5時の方向、距離720m』


「・・・」




『ヨシオ、次。9時の方向、距離640m』


「・・・」




『ヨシオ、ペースが落ちてる。次、8時の方向、距離2070m』


「・・・」




 俺の居る場所に、白い何かを誘導すると思っていたが違ったようだ。俺自身が、姫に誘導されてる。


 今までの探索で一番キツイ。時間経過とともに肉という荷物が増えていく。疲労の蓄積と荷物の蓄積のダブルパンチだ。


 以前、姫に「姫は優秀だが、人間の脆弱さも学んで欲しい」と言った事がある。


 姫の返答は『それを私が学ぶより、ヨシオを強化する方が理想的だ』と言われた。



 姫はハイスペック過ぎて、鬼畜だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る