第12話感動
探索29日目。
拠点で朝を迎える。
『ヨシオ、今日から街に入って本格的に商売を始めます』
とうとうこの日が来た!裏玄関のドアが異世界と繋がって1カ月。長かった。本当に長かった。永遠と歩き続けた日々。永遠と拠点を作り続けた日々。過酷な日々だった。
こんなに努力して異世界に行く意味が解らなくなった。もし、全財産を使い切ってなかったら絶対に途中で諦めていた。もし、仕事を失ってなかったら直ぐに諦めていた。
『何してるの? 早く用意して』
「姫にも、この感動を味わって欲しい・・・」
『日本円が手に入って、満足出来る充電が出来たら考えてあげる』
姫は今日も通常運転だ。ハイスペック以外の取柄が無い。
まぁ、それを言ったら俺は、52才 独身 無職 家族無し お金無し 取柄は1つも無い! 思い出すだけで、気分が落ち込む。
拠点から歩いて3時間、街の入口が見えて来た。拠点から街まで5kmの距離なのに、なぜ3時間もかかったかと言うと、拠点の方角がバレないように迂回して街道に出てから街に向かった為である。
街を囲っている壁が見える。よく見ると木や岩で出来ている。だが、高さは3m程で掘りも無い為、対人戦では役に立たないだろう。何から街を守っているのか解らない壁だ。
門から100m程の距離まで近付くと、門番が慌ただしく動き始めた。
「姫、これってなんかヤバく無い? 警戒された?」
『ここで引き返した方がヤバい事になります』
覚悟を決めて行くしかないか。
「こんちわ。通りたいのですが、良いですか?」
「止まれ。なにものだ」
”ナニモノだ”って。翻訳大丈夫? そんな事言われた経験ないけど。
「旅をしながら行商をしている、ヨシオと言います」
「行商ならギルドカードを出せ」
ギルドカードなんて無いよ。商業ギルドとかあるの? ヤバい。なんとか誤魔化さないと。
「お恥ずかしながら、この歳になって行商を始めようと思いまして、まだギルドカードを持ってないんです」
この言い訳は苦しいか? お願いです、俺のウソに騙されて下さい。
「その歳で行商を始めた事と、その体のデカさは何か関係あるのか?」
「へ?」
予想外過ぎる質問だ。この質問に何か意味があるのか?
さっきまで1人だった門番が、いつの間にか5人に増えてる。
(あぁ・・・ヤバい。受け答えを間違えたか。戦闘になる前に逃げた方が良いか?)
「お前ほどの体格があれば、冒険者や貴族のお抱えになった方が余程良い稼ぎになると思ってな。気にするな」
「ハハッ、ハハッ、ハハ」
俺は愛想笑いだけで、この窮地を乗り切った。
『ヨシオはウソが下手ね』
「・・・そうだな、俺は正直者だからな。褒め言葉として受け取るよ」
『率直な評価で、褒めてません』
無事に門を通過する事が出来た。通るのにお金は必要無かった。集まって来た門番達は、俺のデカい体を見たかっただけのようだ。
「さて、何をしようかな」
『ギルドカードを作るに決まってます』
「・・・忘れてた。 カードを作った後に」
『市場調査です。遊んでる時間はありません。食事も観光も必要ありません』
姫の判断は正しいと知っている。信じてもいる。が、マジで鬼畜の所業である。
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