第11話その通り



 次の通行人を待ちながら、白い何かのドロップ肉を焼く準備をする。



『ヨシオ、少しマズい状況ですネ』



「マズいって、何が? 盗賊でも近づいて来たか?」



『違います。気が付かないのですか』



 思い出した。先日1時間も説教された事を。



「ヒト-ヒト感染するウイルスへの対策の事か」



 もし、さっきの男性がキャリアで、今の接触で感染していたら免疫を全く持ってない俺は・・・。 マズいというよりも、ヤバいだろ。



『いいえ。その件ではありません』



「え? 違うの?」



『昨日から抗生物質入りの風邪薬を飲んでますよね』



「指示通り、3種類の風邪薬をそれぞれ通常の3倍の量飲んでるぞ」



『それで対応出来ないウイルスなら、仕方ないので諦めましょう』



 俺の命を軽く考えてないか? 相棒だろ? バディだろ? そんなんで良いのか?


 文句を言いたい。ガツンと言ってやりたい。だが、姫が指示した以上の対応策が俺には思いつかない。


(・・・やっぱ、、、俺って頭悪いのかな)



『はい。その通りです』



 俺の独り言に返答するな! ”その通り”って言うな!!




『話を戻しますが、この辺りでは塩が貴重なようです』



「そうだな。・・・ここに来る前から気付いたのか?」



 昨日自宅に戻った時に、買い置きの食塩から使いかけの食卓塩まで持つように言われた。姫はハイスペックを越えて、未来予知まで使えるのか?



『日中と夜間の気温差が20℃以上です。地球の砂漠に似ています。近くに大量の水、つまり海が無い可能性が高いです』



「海が無くても、岩塩なら可能性はあるだろ」



『森を探索しましたが、岩石の山は発見出来ませんでした。この付近は限りなく平坦な台地の為、鉱物資源を得る手段が限られます』



 流石はハイスペック。だが未来予知では無かったようだ。



「塩の事は置いといて。 マズいって言ってたのは何の事だ?」



『馬車を使うような水準では、金や銀を精錬する為に塩水を使うのは常識です』



 それ常識なの? 俺は知らなかったよ。 


 姫が求める常識の水準が高すぎて困る件。 どっかに有りそうな本のタイトルだ。



「お! じゃあ 塩を大量に売れば儲かるな!」



『それで得る事が出来るのは異世界の通貨です。日本円が無いと満足出来る充電が出来ません』



 日本円が無いと塩を大量に仕入れる事も出来ない。俺の全財産は2000円を下回ってるからな。現状では、直ぐにでも日本円が欲しい。



「日本円を得る方法は何を予定してたんだ?」



『当面の活動資金は、異世界の金貨や金塊を日本で換金する予定でした。しかし、塩が無ければ含有量を上げるのが難しい』



「濃度が低くても大量に持って行けば良いだけだろ?」



『日本での金取引には税金がかかります。大量に取引したら税務署が動きます。出所不明の怪しい金塊では、窃盗の疑いや密輸の疑いで警察が動くかもしれません』



「・・・それは、マズいな」



『はい。最初からマズいと言ってます』




 この日は夕方まで道端露店を行い、白い何かのドロップ肉を4つと、使いかけの食卓塩1つを売った。銀貨は32枚になった。



「最後に肉を買った人、銀貨20枚でも買ってくれたな」



『肉と塩以外の物が売れなかったのは予想外でした』



 ハイスペックでも未来を予知出来ないなら、俺と一緒だな。

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