第9話秘策



 探索17日目。 




『家を作ります』



「はぁ? 意味が解らん!」



 早朝から、姫が良く解らない事を言い出した。



『ドアから街まで直線で21km。片道5時間以上必要です。1日で往復は出来ません』



「街の宿に泊まったら?」



『宿という文化があるか解りません。第一、通貨を持ってません』



 言われてみれば、その通りだ。宿が存在していても、空室がある保証はない。



「拠点を作って、そこを中心に何らかの方法で通貨を得てから街に行くって事か」



『正解。まずは街から見えにくい所に家を作ります。場所はギリギリ森の中。ドアから16kmの位置です』



「16km? 片道4時間以上だぞ。作業時間は2時間も無い。そんなんでイツ完成するんだ?」



『大丈夫です。秘策が有ります』




 大丈夫? フザケるな! 秘策? どこがだよ!!



 姫が用意した秘策は2つだった。


 1、出発を1時間前倒しする


 2、往復の道のりを走る


 計算上は、1日の作業時間が7時間以上になる。



「姫、これは秘策とは言わない」



『嫌なら作らなくても良いわよ。 いきなり門番に突撃して、一生牢獄暮らしになる覚悟があるならね』



 姫が言ってる事は正しいと思う。論理的に納得できるし、筋が通ってる。


 ただ、俺の思ってた異世界のイメージと違う!






 探索26日目。




 一応拠点が完成した。この短期間で良く作った! 自分で自分を褒めてあげたい!


 ログハウス風ではあるが大きく違うのはサイズ感。2m×2m高さ1mの箱だ。丸太で組立てただけの箱だ。中に入ると、狭すぎて圧迫感がある。窓も無い。換気が悪い。頑丈だけが取柄の木の箱だ。正直言って、室内の居心地は悪い。


 今日は一晩ここに泊まる。明日の朝自宅に帰って、太陽光発電の機材を運んで設置したら本当に完成だ。


 始めて、森で一夜を過ごす。トラブル無く過ごしたい。






 探索27日目。




 早朝、目を覚ます。


 夜中は何も無かった。何も無さ過ぎた。猛獣の鳴き声も無かった。月も無かった。


 唯一、劇的に寒かった。



『今日から忙しくなるんだから、直ぐに出発するわよ』



 姫は暇だったかもしれないけど、家を作っている俺は大変だったよ!


 姫に文句を言っても始まらない。気を取り直して、本日の予定を姫に聞く。



『出来るだけ多くの機材や物資を拠点に運ぶ』



 予想通りだった。






 探索28日目。




『早く起きなさい! 出発するわよ!』



 姫に叩き起こされる。



「ん---。寒っ! まだ4時だぞ。日の出まで2時間もある」



『エルフがいるかもしれないのに。残念ね』



 俺は、飛び起きた。

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