第7話いたわる
探索1日目。
翌朝、俺は姫と異世界探索に出発した。姫はマジで高性能だった。Wi-FiやBluetoothを駆使してドローン3機を操っている。GPSが無い異世界で、地図を作っているようだ。
俺の役目は簡単だ。姫の指示通りに歩くだけ。ただし、バッテリー等の機材だけで40Kgの荷物を背負っている。
ドアを中心に、グルグルと螺旋状の円を描くように探索して行く。効率が悪そうに思えるが、街がどの方向にあるのか解らないので仕方が無い。街どころか知的生命体が居るのかも不明だ。
『何してるの? ヤル気が無いなら異世界探索辞める?』
歩き始めて3時間。52才のオッサンが40Kgの荷物背負って森の中を歩くんだぞ。少しぐらい休みたくもなる。だが、全財産を賭けた探索なのだ。簡単には辞められない。
10時間程歩き続けて、初日の探索は終了した。自宅に着く頃には体はボロボロだ。魔物は見なかった。野生動物も見なかった。何もと戦わなかった。体力不足で俺の体が悲鳴を挙げ続けただけだ。もう1歩も歩けない。このまま廊下で眠りたい。
『早く充電しないと明日探索出来ないよ。 今日で探索辞める?』
姫は鬼畜だった。 姫の辞書に”いたわる”という文字は無いのだろう。
探索2日目。
全身筋肉痛で体が重い。因みに、足の裏には豆が2ヵ所出来た。
歩き始めて6時間。歩行に必要無い、表情筋を動かす事を放棄した。
姫の指示通りに歩くだけで良い。思考能力と感情を放棄した。
姫が操る4機目のドローンの完成だ。
探索3日目。
本日の探査開始位置へ向かう途中、姫から今までに無い指示が出た。
『動くな!』
指示の内容が理解出来ずに、俺はフリーズした。
『構えて。正面から来るわよ』
俺が、「何が?」と聞く前に、白い何かが俺に向かって突っ込んで来る。次の瞬間、鳩尾に強烈な衝撃を受ける。体当たりして来た白い何かは、地面に落ちると足をピクピクと痙攣させていた。
俺はスコップを取り出し、首を切断するように思いっきり振り下ろす。白い何かは黒い粒子になって霧散した。残されたのは10cmくらいの肉。
『ドロップは肉ね。ヨシオの餌が増えて良かったわね』
酷い言われようだ。だが今は食料が一番嬉しい。肉を拾おうとして鳩尾の異変に気が付いた。痛みは無いが、熱い。
各種バッテリーパックは背負うだけでは持ち切れず、全身のあらゆる所に収納している。鳩尾はドローン用のバッテリーだった。取り出すと、もう使えない事が解る程に変形していた。
『高い肉になったわね。探索効率も落ちるわね』
何も言い返せない。確かに俺の落ち度だ。姫は適切な指示をしていた。俺が動けなかった。構える事も、避ける事も出来なかった。
この日の探索は体だけでなく、雰囲気も重い探査になった。
探索11日目。
3日目以降、白い何かと良く遭遇する。昨日は肉を10個GETした。美味しい肉とは言えないが、現金が無く食料を買えない俺としては有難い。
肉の安全性は一応調べた。協力してくれたのは、いつもコンビニの周りにいる野良猫さんだ。
それにしても、姫が選んで購入したスコップは使いやすい。武器としても使えるが、盾としても使える。歩く時は杖としても使える。姫の口車に乗せられて購入したが、値段以上の活躍を見せている。
スコップの件もそうだが、姫はハイスペック過ぎる。
白い何かとエンカウントするタイミングを調整しているようだ。今まで複数を相手にした事が無い。
バッテリー交換の指示も絶妙だ。ドローンの予備バッテリーを1つ失っても毎日10時間は探索出来てる。どうやって調整しているのか謎。
毎日家に帰っているが、一度も迷った事が無い。地図を作っているのだから当然とも言えるが、そもそも目印が無いのに何をマッピングしているのか想像も出来ない。
それに比べて、俺のダメっぷりは相変わらずだ。これだけ動いてるのに、未だに筋肉痛が酷い。人間を生体部品の価値しか無いと感じた、姫の気持ちが今なら理解出来る。
『歩く速度が落ちてるわよ。異世界探索に飽きたなら辞めても良いのよ』
「・・・」
集中力を切らして余計な事を考えてると、何故かバレる。
姫がハイスペック過ぎて怖い。
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