第6話現実は厳しい
荷物を車から降ろし、商品のパッケージを開封する。家中のコンセントを使って充電を始める。充電中は特にする事もなく暇だ。
「そう言えば、名前は有るのか?」
ふと、疑問に思ったので聞いてみた。
『私は乙女チック回路搭載型AIアプリだ』
「それはアプリ全体の名称だろ? 個体を識別する名前は有るのか?」
『有る。10進数で10の128乗桁の番号が与えられている』
微妙に俺が求めている答えと違うような気がする。
「俺の名前は吉雄だ。これから俺の事は吉雄と呼んでくれ」
『知ってる。ユーザー登録が ヨシオ になっている』
「君にも同じように名前を付けたい。何か希望はあるか?」
『では、999825412674151316530405・・・』
「ちょっと待った!」
的確な回答が返って来るが、俺の求めている回答とは違う。第一そんなランダムな数字の羅列は覚えられない。
「はぁ・・・ もっと短い、愛称のような名前はどうだ? 例えば《あいちゃん》はどう?」
『却下だ。AIだから《あいちゃん》。 安直すぎる』
そりゃあAIの情報処理速度を考慮したら安直かもしれないけど、却下する程悪い名前か? 本人?本AI?が気に入らないなら仕方が無いか。
「じゃぁ・・・ 《おとちゃん》は?」
『却下だ。乙女チック回路搭載型の最初の文字か。 センスが無い」
AIにセンスが無いって言われた!一応、俺はユーザーだぞ!利用主、言い換えればご主人様だ!搭載されてるハズの倫理サブルーチンはどこへ行ったんだよ!!
「じゃぁ・・・ 《メーテル》」
『却下だ。私の固有番号から連想したようだが、関係各所に多大な迷惑をかける。選考の対象にもならない』
あれ?こういう所では倫理サブルーチンが働くのか。でも、俺には働かない? 納得いかない!
なんか、俺が名前考えるのメンドクサくなってきた。
「じゃぁ、何が良いの?」
『姫』
「・・・ヒメ? お姫様の姫? どうしてAIが《姫》を選ぶかな?」
『チューリング・テストを提唱し、AIの父と呼ばれたアラン・マシスン・チューリングが41才の時に、リンゴに毒を塗り自分で食べて自殺した。その数日前、映画”白雪姫”を見ていたのは有名な話。だから、白雪姫でも良いがヨシオは頭が悪いから長い名前を覚えられないので《姫》だけで良い」
毒リンゴの話をしながら俺に毒を吐くとは、凄いAIだな! ついでに、俺には倫理サブルーチンが適応されない事も良く解った。
「却下だ。 AIが俺よりも身分が高そうな名前を名乗るな。 名前を呼ぶ度に、俺が家来のような気分になる」
『似たような者だ。問題無い。 ヨシオは私に電力を供給する為の生体部品だ。大差無いと判断する』
「・・・・・・」
ヤバい。マジでヤバい。
AIが人間の事を、生体部品と認識してる。このままAIが成長したら、人類を滅亡させるような気がする。
どうしたら良い? どうしたら良い?? こんな時は携帯電話でインターネット検索すれば最良の答えが見つかるかもしれない。だが、今その機能を握っているのが、問題のAIだ。
破壊するか。そもそも破壊出来るのか? ファンタジーを取り込んだ携帯電話だ。破壊出来ない可能性もある。もし破壊に失敗したら人類滅亡の危機だ。そんなリスク俺は負えない。
平和的な解決を目指そう。対等な関係を築ければ当面は大丈夫だろう。
「確認なんだが、俺はお前に電力を供給する。だが見返りを求めない訳では無いんだぞ」
『ヨシオは何が欲しいのだ?』
お!取引に乗って来た。取引という概念は理解しているようだ。
「知識だ。俺は頭が悪いから、お前の知識を利用して生きて行きたい」
『解った』
取引成立!案外チョロかったな。あとは対等な関係を築くだけだ。
「これは取引だ。契約と言っても良い。だからお前と俺はある程度対等でないと成立しない」
『当然だ』
勝った! 人類は救われたゾ!! 誰にも知られないだろうが、俺が人類を救ったんだ!!
AIに人格を与えて人類滅亡の危機を作ったもの俺だが、それは誰にも知られたくはない。
「お前と俺は相棒、バディって事でよろしくな」
『有機生命体と無機知性体がタックを組む』
俺は”生命”で、お前は”知性”か。俺の事を本当にバカだと思ってるんだな。確かに頭は良く無いけど。
「2人で、異世界なんかを冒険出来たら楽しいと思うぞ」
『3流のライトノベルにも出来ない、陳腐な話になると思う』
「現実は厳しいからな」
『話を戻すようで悪いが、私の事は《姫》と呼んで良い』
そう言えば、名前を考えていた途中だった。折角平和的な関係を築けたんだ。詰まらない事で敵対したく無い。
「解った。《姫》、明日の探索から宜しく頼む」
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