第5話大丈夫かな

「・・・有り得ないだろ!」


 AIが進化する? どこのSF映画だ!遠い未来なら起こるかもしれないが、なぜワザワザ俺の携帯電話で進化する?


『ショックなのは理解するが、現実を受け入れろ』


「・・・」



 今日は、何の厄日だ?いきなり無職になって。自宅が異世界に?つながって。俺の携帯電話は自我?を持ち始めた。


 そして、俺は今、自分の携帯電話に命令されて最寄りの電気屋へ向かってる。最寄と言っても車で片道1時間だ。


「限界集落ナメんな! 人間様をナメんな!」


『五月蠅い。運転に集中しなさい』


「・・・はい」



 どうやら、あの森は本当に異世界だったようで、半透明な球はスキルオーブと言うらしい。俺の携帯電話が吸収したスキルは【言語理解】だったようで、音声による会話も可能になったらしい。スキルはコンピューター言語にも有効だったようで、インターネット上にある全ての情報にアクセス可能になったらしい。


 らしい・・・というのは、今の俺には否定も肯定も出来ないから、受け入れるしかないと思ったからだ。



 問題は、スキルを取得したのがアプリではなく、携帯電話端末だった事だ。電池切れを防ぐ為に大容量モバイルバッテリーを要求された。また異世界では通信機能が使えない為、必要な情報を本体に蓄積出来る大容量データーチップも要求された。


 まぁ・・・世界中の携帯電話が自我を持たなくて良かった。と思うべきだな。



「異世界?を冒険するのを手伝ってくれる。って事で良いんだよな?」



『その為のバッテリーとデーターチップだ。他にも必要な物は沢山あるが、現物を見て判断する』



「あの・・・俺、今無職になって。あまりお金が無いんだ」



『知っている。ヨシオの通帳残高は42万2937円だ』



「えっ?」



 なぜ知ってる? 端数まで知ってるって、有り得ないだろ。



『何を驚いている? 銀行のシステムに問い合わせただけだ。 因みに、2.04秒あれば合法的に残金をゼロにする事も可能だ』



「それだけは、勘弁して下さい」



 なに?このAI。優秀過ぎて怖い。オマケに凄く偉そうな話し方をする。



『ヨシオは貧乏だな。52才で金融資産が42万とは。私への電力供給が滞りそうで不安だ』



 そんなのは俺が一番理解してる。52才で独身。家族もいない。お金も無い。職も失った。普通に考えて、人生詰んでる。だからこそ、進化したAIを使って異世界で再出発しようと考えたんだ。




 日が沈み、車を運転して自宅へ帰る。俺の心は後悔と不安でいっぱいだ。原因は解っている。AIの口車に乗って言われるがまま全部買ったからだ。今の通帳残高は937円。財布の中には千円札が1枚と小銭が少し。


 つまり、全財産を賭けた大勝負だ。



「はぁ・・ 俺、大丈夫かな?」



『何を悩んでいるか解らないが、次回の電気代を未払いにしても電気の供給が止まるまでに最短40日はある。それだけ時間が有れば何とかなる』



 コイツ、マジか。俺にはそんな時間は無い。数日分の携帯食料は購入出来たが、現金収入が無ければ3週間後には餓死するぞ。40日後の心配なんてしてられるか!



「俺が死んだら、お前は誰に充電して貰う気だ?」



『命の心配か。そう簡単には死なせない。その為に色々と買ったのだ』



 それ買ったの、俺の金だから! お前が買ったような言い方するな!


 コイツと上手くヤッて行く自信が無い。

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