第3話3回目



 目の前には、森。


 右を見たら、森。


 左を見たら、森。



 本日、3回目の森。 だが、今回は少し違った。


 ドアから2m程離れた所に白い何かがいる。大きさは20cmくらいで、全身は白い毛に覆われている。たぶん、コイツがドアにぶつかったのだろう。


 そう思った次の瞬間、白い動物のような物は黒い粒子になり霧散した。残ったのは10cmくらいの半透明な球だった。



「有り得ないだろ!」



 目の前で次々に起こる現実離れした光景に俺の頭は付いていけない。


 放心状態から数分。俺の出した結論は



「よし・・・・・・家に入ろう・・・」




 ソファーに座って考える。


 動物の体積と黒い粒子の体積が、どう考えても吊り合わない。おまけに粒子は霧散した。空気よりも軽いと予想される。



「はぁ・・・ 物理法則を無視した現象だ」



 だが、森には行けた。再現性があるという事は、俺が知らないだけで科学としては確立している。とも言える。


 つまり・・・


「俺が知らないだけで、誰か知っている人が居るかもしれない。誰か同じ体験した人が居るかもしれない。」


 その誰かがネットに書き込んでるかもしれない。




「2時間だぞ!2時間!! これだけ調べてもダメか」


 該当記事の殆どが、ファンタジー漫画かファンタジー小説だった。信憑性のある体験談は、一つも見つからなかった。



「ハァ・・・」



 溜息しか出て来ない。携帯電話の画面を見続けて疲れた。腹も減った。冷蔵庫を開けるが、目ぼしい物が無い。今日の昼食はコンビニで買おうと思っていたので冷蔵庫には何も入ってない。



「コンビニは閉店。ついでに俺は無職。現実は厳しいな」



 明日は職業安定所に行って仕事を探そう。父が残したお金は出来るだけ使わないように生活してきたが、通帳の残高はわずかだ。頼れる親戚も家族もいない。働かないと生活が出来ない。




 非常食用のカップ麺にお湯を注ぎ、テレビを見ながら待つ。特に見たい番組がある訳でもなく、チャンネルを変えながら適当に時間を潰していたら、気になる番組が有った。


『AIがチャット機能を使って会話するアプリがリリース』


 インターネット上の情報をAIが取捨選択を行い、最適な回答をするようだ。旧型AIとの違いは、倫理サブルーチンと乙女チック回路の導入。


「倫理サブルーチンは納得だな。乙女チック回路ってなんだ?」


 解説者の説明によると、ユーザーの趣味嗜好を学習して回答に反映させる機能らしい。自己矛盾パラドックスを回避する技術が応用されているらしい。


「説明されても解らないな。こんな機能が必要とも思えない」


 とは言え、これを使ったらより効率的に検索が出来そうだ。試しにインストールしてみるか。




 カップ麺を食べ終わり、早速アプリを起動する。ユーザー登録をすると説明文が表示された。チャットだけに、文字入力が必要なのか。自然言語による文章入力にも対応してるのか。凄いな。



≪動物の体が黒い粒子になって霧散したが、この現象を知っているか?≫


 入力終了ボタンを押す。


『241通りの可能性があります。最も有力な可能性は自然腐敗していく様子を撮影して・・・・・』


「ちょっと待て!! 241通り?」


 回答欄の文章をスワイプすると、どこまでも続く長い文章が現れる。


「どこの卒業論文だよ! 文字数制限とか設定出来ないのか? あっ!質問文で文字数制限すれば良いのか?」




≪動物の体が黒い粒子になって霧散したが、この現象を100文字以内で説明せよ≫


 入力終了ボタンを押す。


『可能性の高い順に列挙します。 1.腐敗の様子を撮影し早回しで見た 2.あなたが夢を見ていた 3.あなたが幻を見ていた 4.あなたが白昼夢を見ていた 5.あなたがアニメを見ていた 6.あなたがヤバい薬を使用していた 7.あなたがヤバい宗教の勧誘を受けていた 8.あなたの精神がヤバい状態に陥っていた 9.あなたの脳が病気に陥っている 10.あなたの目が病気に陥っている 11.・・・・・』


「ちょっと待て!! 俺は正常だ! たぶん・・・」


 質問した俺に問題が有るって、そんな回答で良いのか?倫理サブルーチン搭載と言ってなかったか?ユーザーを攻撃するのは倫理に反しないって判断なのか?




≪動物の体が黒い粒子になって霧散したが、この現象を30文字以内で説明せよ。ただし、腐敗、夢、幻、アニメ、薬、宗教、精神、病気の語句又は意味を含む回答は除外する≫


 入力終了ボタンを押す。


『地球とは異なる法則を持つ世界を観測した可能性が高いです』


「何を言っているんだ? 地球じゃないのか?」


 もっと解りやすい表現は出来ないのか?




≪地球とは異なる法則を持つ世界を一言でいうと何だ≫


 入力終了ボタンを押す。


『異世界です』


 科学で作ったAIが、目の前で起きた現象をファンタジーと結論づけた。

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