第4話 夜襲 視点 ハイレン
3日の行軍を終え、ムーミエ村の近郊まできた。
小休止の間にシュネッケに命令される。
「ハイレン、クララを連れて偵察に向え、宿があったら私の食事と酒の準備をさせておけ、兵の分の温かい食事もついでにな。」
100人隊で12人しか居ないのでシュネッケは資金を潤沢に使っている。
軍務省の書類上では約100名の兵士が動いているのだから、予算も100人分付いているはず。
だが、実際は臨時徴募の私を含め12名なので差額はシュネッケの懐に入っている。
ただ不正行為かどうかは実はグレーだ。
兵には欠員が付きものだし、頻繁に兵員補充がきかない現実から、100人隊の働きさえすれば、欠員分の予算などには目を瞑る風潮が軍務省にはある。
年に何回かの財務省監査までに帳尻を合わせられるなら不問に付す。
それが軍務省事務方のやり方だ。
財務省に入った同窓の司祭が、監査間際になると合戦もしていないのに兵が続々と行方不明になると皮肉タップリに話していた。
「村は何者かに襲撃を受けた様です。半分近くが焼けてますし、人の気配はありません。」
クララの報告に半ば納得し、半ば疑問が残った。
「ゴブリンなどは?」
「いえ、おりません。」
前の村でムーミエ村の話が出なかったのは、村が既にないと知っていたからだ。
では、襲撃者は誰か?
ゴブリンならば相当数が必要になり、一匹も居ないのは不自然だ。
捕食者も考えられるが、オーガなら村に火は付けない。
盗賊なら……。
多少なりとも自衛手段のある通常の村を滅ぼす盗賊なら、それなりの数がいてそれを養うアジトがあるはずで、ソート村が、それに当てはまるなら可能性は高い。
そして、それが分かって討伐隊を出すなら兵員規模は100人隊だろう。
「クララ、本隊に戻る。シュネッケ隊長は勘違いしているかも知れない。」
戻りながら、私はクララに仮説を説明する。
「ハイレン司祭は、やはり軍の人ですね。私なんかは、温かい普通の食事が出来なくて残念としか思わなかったのに。」
冒険者と違い、軍は行軍中は保存食を温める燃料を惜しむ事が多い。
兵站付きの、もっと大部隊なら別だが100人隊以下では保存食を、そのまま食べるだけが通常だったりする。
それに聖王国軍の進軍速度が他の王国軍より早い秘密もそこにある。
もちろん数日に一度は温かい食事の日もあるのだが。
「その意味では、シュネッケ隊長が1番残念に思っているでしょう。」
私が呟くと、クララは大きく笑った。
夜
シュネッケに報告を終えると、その場で夜営になった。
行軍を続けソート村に近づき、盗賊の規模が大きいなら退却する。
その場合、私は退却前に脱走する必要があるが……。
従軍司祭兼、10人兵長待遇なので個人テントで休んでいると、外から声がする。
それも、聞き覚えあるエルフ語だ。
「[ハイレン!敵襲だ!]」
装備を手早く整え外に出ると、ムーミエ村の方向からランタンの灯りが近づきつつあった。
「敵襲!敵襲!」
今更、歩哨が叫ぶ。
「発見が遅い!素人じゃあるまいし!」
ハルピアで死んだフィーバーの口癖が思わず口に出る。
ジャック・オー・ランタンに率いられた元村人達。
スケルトンとゾンビの混成隊30体以上が夜営中の我々に襲いかかってきた。
「矢が通じません。」
クララが悲痛な声を上げる。
「か、囲まれてます。」
すっかり怖気づいた女性兵士達が篝火の周りに集まる。
私は指示をだし、防衛線を築かせた。
シュネッケは騎乗し、リザードマン刀を抜いて男性兵士を鼓舞しているが、夜間戦闘に慣れていないからか、肝心な兵達はジリジリと後退している。
そしてゲショスはジャック・オー・ランタンと話をしていた。
「お久しぶりです。クレオ様」
「あの[学問の神]の死霊術師は、あんたの差し金かい?ゲショス。」
ボンヤリ光る首が答えた。
「はい。ギルドから貴女に英雄のレシピを尋ねる様に申しつかりました。それがポピ様のシマを継ぐ条件だと。」
アンデットに包囲される部隊を尻目にゲショスは敵中に堂々と立っている。
「ムゲットメモから故意に抜かれたページをお譲り下さい。尋問されたポピ様は最後まで、元から無かったと申してましたので。」
「あたいは知らないね。クーアが保身の為に抜いたんだろ。それに……」
ジャック・オー・ランタンの目が怪しく輝く。
「裏切ったポピの仲間を生きて返すとでも思ったかい?」
[死の燐光](使2残8)
ビクリと震えた後、ゲショスが胸を押さえ倒れる。
「残りは擦り潰してしまえ。」
ジャック・オー・ランタンの指示を受けアンデット達が包囲を1段と狭めた。
「至高神よ、その剣にて、死者を祓え」[使2×3残0]
シュネッケが叫び、3体のアンデットが灰になった。
「包囲を突破して退却しろ!」
続けてシュネッケが叫ぶが思う様にならない。
「逃がすものかい。」
ジャック・オー・ランタンが叫ぶと包囲の穴が、すぐ塞がる。
「ハイレン!突破口を開けろ!」
シュネッケが再度叫ぶ。
スケルトンとゾンビぐらい、私1人なら包囲を破り逃げ出す自身はある。
それに、これは脱走の好機だと理性は告げている。
だが、部隊員は全滅するだろう。
どう見ても訓練が足りない。
だが……。
「ハイレン司祭!助けて!」
クララの叫びに私は小笛を吹いていた。
馬鹿な選択だとは思う。
チャンスを棒にふり、[第3クォーター]に迷惑をかけるのだから。
しかし、僅かでも、僅かでも、世界に正義がある事を示すのだ。
私は啓示を受けた至高神の司祭なのだから。
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