第3話 禁酒の教え 視点ハイレン
シュネッケのテントに向かう道すがら、クララに自身の事を尋ねた。
クララは狩人の娘で剣は、からっきしだが、弓ならば自信があると話した。
なるほど、それでトロールの擬態を見破ったのかと納得する。
「装備を長弓にして、もらいましょう。それに偵察兵になってもらいます。」
私が告げるとクララは渋い顔をした。
理由を尋ねると、はっきりと断言する。
「偵察兵って死に易いですよね?私は3年生き延び、村に帰るんです。」
恋人でもいたのだろうか?
何か甘酸っぱい話が聞けるかと期待していると、クララは暗い目をした。
「狩人だった父が死んだ途端に、私に応募兵ノルマを押し付け、毛皮や財産を奪った村長に復讐するんです。それまでは死ねません。」
唖然としている間にシュネッケのテントに着いた。
「トロールか?腹さえ空かして無ければ無害なのだがな。」
ゲショス十人兵長に給仕をさせながら夕食を取るシュネッケの前に私とクララは直立不動で立っている。
「歩哨を増やす事は了承だ。2名づつ、ゲショス、お前も含めてローテーションを作れ。ハイレンと私は含めるな。神力は寝ないと戻らん。」
ゲショスは給仕中の為か黙って敬礼をする。
「クララ、お前には剣と盾の変わりに長弓と矢を荷馬車から支給する。また偵察兵に任ずる。励め!」
「ハッ」
クララは内心どう考えているかは、ともかく、声を上げ敬礼した。
「早速だが、ハイレンと組み偵察に出て貰う。出発前に食事をしておけ。」
シュネッケは、そこまで話すとまた食事に戻った。
が、
私とクララがテントから退出しようとすると、呼び止められる。
「ハイレンは魔族産のワインを飲んだ事があるか?」
私は疑問に思いながらも、「あります」と返答した。
ペティ君を眺めながら、グラスを傾けた事を思い出す。
「刹那的な人間と違い、長命な魔族の方が良い酒を作る。熟成ワインなどの長期熟成酒については別格だ。どこで飲んだ?」
「ハルピアです。」
[魅惑の伯爵夫人]の料理を思い出し、空腹感が刺激される。
「だ、そうだクララ。ハイレンは魔都ハルピアに任務で赴くぐらいの実力はある。生き延びたくば学べ。」
クララは再度敬礼をした。
だが、残念ながら実力の件は誤りだ。
司祭としての実力がないから、第2傭兵隊に配属され、死んでも惜しくないから特務班に配属された。
シュネッケの買い被りとしか言えない。
私達はシュネッケとは比べ物にならない保存食を噛じると偵察に出た。
「やはり、トロールに追尾されてます。仕掛けて来る気配はないですが……」
クララの気配感知は私より数段まさる様だ。
私には[第3クォーター]の気配は全く感じられない。
気にしても仕方ないと伝えると、尋ねたい事があると言う。
「シュネッケ様は魔族の熟成酒が優れていると話されてましたが、同じく長命なエルフのお酒については聞きません。ドワーフの強力な蒸留酒などは有名ですが……」
「やはり、お酒は魔に属する物なのでしょうか?」
予想に反し、質問は信仰に関する物だった。
聖王国を自称するだけあり、農民にも信仰に厚い者は多い。
クララも、その1人の様だ。
至高神の教えには様々な摂取禁止物がある。
阿片、大麻、煙草、コカの葉、英雄、などなど。
転生者が付け加えたとされる物もあり、名前だけで、どんな物か分からなかったりする物もある。
一応禁酒の教えもあるが、司祭である私を含め守られていない。
禁酒の教えを守っているのは、余程信心深い者だけで、それも自身の信心深さを自慢するぐらいの効果しかないと私は考えている。
「知り合いの話では、エルフもお酒は作っているそうです。酒精には傷の毒を消したりする効果もあるので。」
かつての仲間、酒飲みエルフのプラティーンを思い出しながら話す。
「ただエルフには飲酒の習慣が元々はなかったので、エルフの作ったお酒に有名な物はありません。薬としては良く用いられているそうですよ。」
そして一言付け加える。
「薬にもなるのですから、一概に魔の物とは言えません。」
私の返答にクララは感心していた。
やはり司祭様だ、従軍司祭とはいえ啓示を受けた方は違うと……。
クララに他意はないと分かっていても、
何故か試された気になり、気分はモヤモヤした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
設定解説
実際に複数の神の存在するこの世界でも戒律は完全には守られません(笑)
まぁ、神々も余程の事でない限りスルーするぐらいの、おおらかさは持っているのだと思います。
でも、現実世界よりも意味の分からない戒律は少ないはずです。
その戒律は、意味なくなったので、やらないで良いですよって、伝えてくれたりするので。
逆に変に拘り強い神様だと大変かもしれません。
*定形文*
このお話はフィクションです。
実在する宗教等とは、一切関係ありません。
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