第4話【推しと通話】

『は、初めまして彼方さん。聞こえてますか』

「は、初めましてルナさん。聞こえてますよ」


 俺は高鳴る鼓動を深呼吸して抑え、彼方としての声色で返事をした。

 推しと話せて嬉しい気持ちより、緊張のが勝ってしまう。


『やっほー彼方くん。アリスだよ~』

「え!? アリスさんも⁉」

『ルナちゃんね、自分から彼方くんに通話誘ったのに緊張しちゃって上手く話せるか不安だからアリスも一緒に話してって』

『ちょっとアリスちゃん! それは言っちゃダメ!』


 なんというか……やっぱりこの二人尊いな……。

 

『えー、良いじゃん可愛いよ』

『そういう問題じゃないの!』


 もう俺会話参加しないでずっと二人の絡みを聞いていたい。


『そ、それで彼方さんとのコラボについてなんですけど……』

「はい、僕は常に暇なのでいつでも大丈夫ですよ」


 ルナちゃんは無所属で友達の居ない俺と違って、大手事務所に所属していて配信外の仕事もあるだろうし、ブイラブではメンバーの誕生祭や記念イベント等でライブを開催するため、ボイストレーニングやダンスレッスンを受けたりしているらしいし兎に角忙しそうな感じだから日程に関してはルナちゃん達に合わせなければ。


『じゃあ明後日の日曜日はどうですか?』

「勿論大丈夫です!」

『良かった! それと……えーっと……ホラーゲームの続きを一緒にするって話だったんですけど……』

『ルナちゃんね、誰かが隣に居ないとホラゲーは絶対に無理みたいでね、日曜日にやるコラボは他のゲームにしようかなって思ってて」


 な、なんかアリスちゃんがルナちゃんの保護者に見えてきた……。

 

『それでまた別日に彼方くんさえ良ければオフコラボでホラゲーをやりたいみたいなの』

『えっ⁉︎ オフコラボなんて聞いてないよアリスちゃん!』

『だって今思いついたんだもん。でも彼方くんとオフコラボができるチャンスなんだよ?』

『うぅ……それはそうだけど……彼方さんはそれじゃダメですか……?』

「いやいや、凄く嬉しいし是非したいんですけど僕なんかとオフコラボなんてして良いんですか? 僕無所属だし男なんですけど」


 大手事務所所属の超人気女性VTuberのルナちゃんと無所属の男性VTuberのオフコラボって色々ヤバそうなんだけど……。

 一部のファンから脅迫状送られてこないよな……。


『それは大丈夫なんじゃないかな。アリスも他の事務所の男性VTuberの人と数回オフコラボしたことあるけど別に変な噂が出たりとか荒れたり炎上したりしなかったから。それにブイラブにも男性VTuberは居るし異性とのコラボが禁止されてるわけでもないから』


 確かにアリスちゃんとか雫ちゃんも男性VTuberとオフコラボはしていて炎上はしていなかった。

 けれどルナちゃんはまだ一度も男性VTuberとオフコラボをしていない。なんなら男性VTuberと二人での配信すら一度もしていない。

 けどまぁ……ルナちゃんとコラボできるなら炎上してもいっか。


「そ、それなら良いんですけど……」

『そういえばずっと気になってたんだけど、彼方くんってなんで事務所に所属しないの?』

「最近ちょっと考えてるんですけどね……募集中の事務所が中々なくて」


 募集しているところもあるにはあるけれど、殆どが女性限定で俺は応募することができない。


『ならブイラブに来ない?』

「え、ブイラブに⁉」

『そうそう。つい最近社長が男性VTuberがもう少し欲しいって言っててね、社長に言ったら絶対にオッケーしてくれるから』

『あ、私も社長からルナちゃん誰か居ない? って相談されました!』

「いやいや、僕なんかがブイラブなんて大手事務所に入っちゃって良いんですか? そもそも僕なんかで大丈夫なんですか!?」

『何言ってるの、個人で登録者数三十万人って凄いからね? という事で社長に伝えるね!』

「あ、ありがとうございます……」


 アリスちゃん勢いヤバいな……。

 ここ最近で色んな事が起きてて気持ちの整理が全くついてない。

 つい最近までは普通に配信をしていたのに、いきなり超大手事務所に所属する可能性が出てきて、推しである超人気VTuberとコラボが決まり、更にはオフコラボをすることになる。

 何度夢じゃないかと疑えば良いんだ。

 

 …………ん? 待てよ……?


「あのー……僕二年前にVTuberデビューしたんですけど、もし僕がブイラブに所属する事になったら……」

『私達二期生と同期扱いだね!』

「で、ですよね……」


 ブイラブは他のVTuber事務所と違う所がある。

 それは〇期生募集以外での所属、つまりブイラブからのスカウトで入った場合、VTuberデビューした年の期生となる。一期生よりも前にデビューした人は一期生という扱いになる。

 ただ、どの期生も五人までという決まりがある。


 ルナちゃん達二期生は今から二年前にブイラブに所属し、俺も二年前にVTuberデビューをした。つまり俺がブイラブに入れば二期生という事になる。


 実際にブイラブでは四名が後からの加入となっている。


『なに〜? 私達と同期は嫌なのかなぁ〜?』

「いやいやいや、そんな訳ないじゃないですか! ただ凄い人気の二期生に入るのは場違いというか……」


 ブイラブの二期生は特に人気が高く、現在のメンバーである月宮ルナちゃん。猫葉アリスちゃん。雨宮雫ちゃん。全員チャンネル登録数は百五十万人超え。そんな中に俺なんかが仲間入りするかもしれない……。


『全然場違いなんかじゃないよ。それに彼方くんが入ってくれたら丁度良いよね、ルナちゃん』

『そうだね。彼方さんが入ってくれたらブイラブの全期生に男性VTuberが居ることになるね』


 ブイラブは今四期生まであるが、男性Vtuberが居ないのは二期生だけなのだ。

 それも俺の不安な要素でもある。二期生がブイラブの中で人気が高い要因の一つとして、メンバー全員が女性だからなのではないかと思っているから俺が入ることで人気が下がってしまうのではないかと不安なんだ。


「あ、僕も一つ聞いても良いですか?」

『お、なになに~?』

『どうしてルナさんは僕なんかのファンなんですか?』

『えっ⁉ そ、それは……えーっと……』

『雫ちゃんの配信で彼方くんの配信を知って気になって配信見に行ったら声が凄くタイプでホラゲーで全く怖がらないから守ってくれそうな感じが好きなんだよね、ルナちゃん』

『ちょ、ちょっと! もー! 恥ずかしいから言わないでよアリスちゃん!』


 ……本当にこの二人尊い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る