第41話
(俺は誰だ?誰なんだよ!)
けどわかる。
ここは今俺が生きているこの時代で──さっきまで瞬きみたいに一瞬に消えた光の洪水の夢じゃあないって。
(桂昌院の会見は終わった後に左右田さんとやったからあれは間違いなく甲府寛永寺/桂昌院の会見だ、ならここはどこ?)
「江月……」
すっかり耳障りな大人になった俺の声は、俺の知らない声で、俺は俺でなくなってる気がした。
(俺の……俺の名前……)
*
(ああ……夢だ)
目に入った空をただ茫然と見上げている。
俺を見下ろすただ一色の世界を。
(ここは流星)
後ろから絶望の声がした。
「【上杉景勝殿】でございます!」
それはいつの間にか黒い蝙蝠を身にまとった本多正信さんだった。
(武田家の諜者をしてる本多正信さんが俺を見て、俺をそうだと言うってことは──俺は今度こそ正真正銘『松本良順』なのかな)
自信が無いけどもうどうでもよかった。
ああ……黒い塊が無数に落ちてくる、その虚無への賛美歌でようやっとわかった。俺がやはり史実の世界の流れ星にあったって事が。
神様って案外優しい人なんだと思った。俺に最後の最後の夢の時間を用意してくれているなんて……思いもしなかったよ……。
(きっとこれだからファンの神様は殺せないんだ……)
これほど幸せなことはない。
こんなにも俺は愛されている、俺はいっぱい愛されている、だったらもうそれだけで──俺はこの夢から覚めないでいいと思った。
ああ……この流星群、すごい。
*
「……ん」
「あ……やっと起きた?大丈夫、良順」
「あれ?ここは」
「何を言ってるの?ここは【京】の都。の宿屋だよ」
起きた時に居たのは俺の『松本良順』として接してる『英』だった。
こっちがやはり『現実』か。
まあ、『こっち側』の世界に居ることは間違いは無い。
だがあの夢はいかん。
「まあ、『もうすぐ江戸の時代が終わりを迎え明治の世が始まる』か幕府の時代も終わりを迎える」
「何言ってるの?いまは『明治5年だよ』」
俺は目をぱちくりさせた。
「は!?……桂小五郎は?」
「誰それ?攘夷志士の石塚隆義(いしづかたかよし)殿なら先程まで居ましたけど」
(石塚隆義?誰だそれ??まさか桂小五郎のいない世界)
「そうかなら」
居るか分からんが
「『坂本龍馬』は?」
「龍馬殿なら1階に居ますよ」
本来の時代では龍馬殿はこの場所にはいない。
桂小五郎がいない世界では坂本龍馬が桂小五郎の代わりとなるわけか。
そして聞いたことない志士が居る。
俺はむくりと上体を起こしながら頷いた。
「……そうか。変なこと聞いて悪い」
「へえ『土下座』の時代のひいじ様がそういうの分かったんだ!やっぱちゃんとどこかがカタギの人とは違うのだな」
「……オイ馬鹿。お前も本当に士分なんだから調子に乗るんじゃねえ。気をつけな、ただでさえ今は……」
坂本龍馬の話から長州の政治状況と幕府の状況を知ることが出来た。
長州は新しい時代を迎えつつある、だがその前途は決して平らではない──。
そして坂本龍馬が桂小五郎と会ったその場所は、『参稼大輔』【代言人】になっていたであろう男が宿泊している場所でもあった。
「ああ……やっぱおいしいね、馬刺しと日本酒!」
「だしょ~」
(いつの間に長野駅のそばの日本酒が売りのこの店に連れて来て、飯を食わせようと思ったんだっけ?まあ……こんなこの世界じゃあちよっと何が食いたいかって想像つきにくかったもんな、においだけは美味そうだもんな)
その『美味そうな匂い』に誘われるように俺は再び酒と料理を楽しんだ。
「お、もう全部食べちゃったよ」
「早!まだ5分も経ってないんだけど!」
「かたじけない……」
「じゃあ俺が次の奴、頼みます」
「……伝票と私を巻き添えにしないでくれ。私もお銚子おかわりぃ!」
* 腹が膨れた所で白河さんにはそろそろ「じゃあまた」だ。
というか食べなさすぎじゃない?食べ盛りなのになぁ……育ち盛りでもこうも食細いものかね、確かに半分やけくそのように俺は頼んだけどさ。
正直言うとこの店に入ってから勘定を済ませるまでの流れをもう一セットできないものだろうかと思わざるを得なかったのが本音。
「ほんじゃ、今日はご馳走になりました。ホント美味しかったです!」
「どうも……思えばあまり聞いた事ない国の料理ばっかだったんで珍しかったですな」
(つーか、最後はげっそりとしてた気がする)
「早く行かねば階段で転びますよ。もう夜も明けそうですし──」
白河さんのその台詞に俺はハッとなる。
そういえばまだ時間の概念は『平成』と同じだった。
(じゃあまだ5時半か……じゃあ桂さんは起きてるだろうか)
だがもう俺は走り出していた。
(この世界が俺の想像どおりに進めば)
【明治五年4月16日早朝5時】
(松蔭先生の書の前で何度も迎えるから時は来てしまった、『明治維新』という活気に満ちていたはずの時代の、墓場に俺は──)
* そのいっぴきの蝙蝠に俺は見覚えがあった。
そしてそいつは俺の知ってる『史実の歴史』をまるで逆行するかのように俺に告げた。
いや……そうではなかったんだ、それは『逆行』ではなく──
「平行世界」
と言った方が正しい。
あれから1度未来の世界へと帰った俺はモニターで『あの状態』で
未来になった場合を見ていた。
俺が当時学校で習った『歴史』とは違う方向へ未来は動き出す感じとなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます