第37話 戦う理由
「さて。じゃあ、やるか……」
ゼガオンが両拳をガチンと打ち鳴らし、首を回した。
「うーん……ちょっと待って」
ぼくはゼガオンに片手を上げて言った。
「アホか。このシチュエーションで待ってと言われて待つと思うか?」
めんどくさそうな顔でゼガオンがぼくを睨んだ。
「いや。それでも、あなたは待つんじゃないですか?」
「なぜ、そう思う?」
「少なくとも戦いそのものは正々堂々と全力でやりたいはずだから、です」
「ふん。なるほどな。で、何なんだ?」
セガオンは少し笑みを浮かべて言った。
「やらなきゃ、止まらないっていうのは、まあ何となく分かりました。だけど、ぼくらの何にこだわってるんですか? それを教えてください」
「ただ、
ゼガオンは頭をガリガリと掻いた。
「実は元々は、俺も出来損ないなんだ。だが、身体だけは生まれつきでかくてな、戦闘員としてギルディアにスカウトされたんだ。元々、極貧で差別されてきたから、王族には恨みもあったしな。ギルディアの反政府活動に参加するのに異論は無かった」
「だけど、皮膚も、目も緑色じゃ無いですか?」
「ああ。これは、遺伝子操作のおかげだ。王族たちの遺伝子情報はもちろん、王族がずっと秘匿・管理してきた様々な遺伝子情報を元に改造されている。言わば、改造人間……だな」
ゼガオンは口の端から犬歯をむき出しにして言った。
「俺がどんな能力を持つかは今から戦えば分かるが、とにかく最強の力を手に入れ、気に入らない王族側の奴らを片っ端から殺してきたんだよ。だが、戦争も終わっちまってさ。戦うためのマシーンとして、今まで生きてきたが退屈なんだ」
「退屈……ですか?」
「ああ。分からないか……まあ、それはいい。でな。元々、王族って言うのは我々の始祖に血が近い一族ってことなんだが、それでも本当の始祖、いわゆるオリジンの能力とは異なるんだそうだ。今回、始祖と同じ地球人に女王の種子が着床したことで、その力が復活してるんじゃ無いかって言われててな」
「始祖の力?」
「ああ。始祖には特別な力があるらしいって言われてるんだ……改造に改造を重ねた俺の最強の戦闘能力が、最強の始祖の遺伝子を持った奴の力に通用するのか試しみたいじゃ無いか。本当に楽しみにしてたんだぜ」
セガオンが舌なめずりをする。
「そんな理由で殺し合い? くだらなくないですか?」
ぼくは吐き捨てるように言った。自分でも珍しいと思うくらいに頭にきていた。人の命はそんな軽いものじゃ無いはずだ。
「そう思うか? 俺の能力は、俺が初めて持った財産であり、アイデンティティなんだぜ。元になった始祖の力と同等だと言われるお前らをぶちのめして、証明したいんのさ。俺は俺だ。宇宙にただ一人のゼガオンなんだってな。まあ、分かってもらう必要は無いさ。確かにお前たちからすれば、身勝手な理由だろうからな」
セガオンは、一瞬何とも言えない表情になって、空を仰ぎ見た。
そして、ぼくらに視線を戻すと唇の両端をつり上げ、
「さ。話は終わりだ。もうお前らのブレスレットからレーザーは出ないはずだ。お互いの能力だけを使って死ぬまで楽しむぞ」と言って笑った。
「まあ、でもこれだけは使わせてもらうがな。お前たちは二人だからいいだろ?」
ゼガオンはそう言うと、二振りの幅広の短剣を腰から抜き、両手に構えた。
そして、目の前から消えた。ぼくらの加速能力とほぼ同等の速度で動いたに違いなかった。
ガキッ、キンッ!!
ぼくたち二人は奇跡のように、ゼガオンの斬檄を弾いた。
体毛による攻撃察知能力と神経の加速による反応のたまものだった。
ブレスレットは一瞬のうちに、槍へと変化していた。
素早くゼガオンに向け、高速の突きを放つ。
一瞬のうちに海と深く繋がっていた。ゼガオンの移動する方向を読んで、コンビネーションで突きを入れていく。
『距離を取って気の
海の考えが閃く。
海がゼガオンと近接戦闘を行っている隙に、距離を取って気の刃を二発打ちだした。
海の背後から迫る気の刃。
当たる寸前に、海がゼガオンから飛び退いた。
完璧なタイミングのはずだった。
だが、ゼガオンは手に持つ幅広の短刀でその攻撃を弾いて見せた。
「安心するのは早いぜ」
ぼくは笑みを浮かべ呟いた。もう一発、時間差で気の刃を撃ち出していたのだった。
ギャ、リリッ!!
ゼガオンの首を切断するはずの気の刃が、何か硬いものに当たったかのように
滑っていく。
上半身は裸に見えたが、ぼくらの全身プロテクターと同等の防御を備えていることは間違いなかった。
「今度はこっちの番だな」
ゼガオンは微笑むと同時に、両手に持った短刀を振って襲いかかってきた。それはまるで巨大な竜巻のような力の奔流だった。
巻き込まれると、そのまま叩き伏せられそうだ。
幾つかの攻撃を辛うじて受け流し、二人でゼガオンの背後へ回り込もうとする。
だが、ゼガオンは背中に目があるかのように、ぼくらの移動する先を読み、攻撃をしてきた。
ぼくら二人はゼガオンと距離を取ると、背中合わせになって防御態勢を取った。
「あれ、何か違う動物の遺伝子が組み込まれてるんじゃないか!? 明らかにぼくらとは身体の構造が違うぞっ!!」
海が叫ぶ。
「あの光の反射具合。少し虫っぽくないか……?」
「カブトかクワガタみたいな甲虫の装甲に見えるな」
「確かに……」
ぼくらは息を荒げながら、ゼガオンを見た。
このまま、やられっぱなしのわけにはいかない。みんなを助けなくてはいけないのだ。
『全開で、コンビネーションも使うぞ』
海の考えが脳裏に閃くと同時に、ゼガオンの前に立ち、槍を高速で突き込んだ。
ゼガオンがその攻撃を全て両手に持った短刀で
海がゼガオンの背後に回り込み、足を狙う。
ゼガオンはジャンプして攻撃を避ける。
ゼガオンの短刀での矢継ぎ早の攻撃が襲いかかる。
ぼくら二人はそれらを槍で捌き、プロテクターで受け流した。
「おいおい。完全に加速能力を持っているよな!?」
海が叫ぶように訊くと、
「ああ。俺の体には、お前たちと同じ神経の加速能力が付加されている」
ゼガオンは言って言葉を続けた。
「他にも、虎やゴリラの筋力、そして、お前たちも気づいたように甲虫のプロテクターも付加されているよ」
ゼガオンは牙をむいて言った。
「なんか。やばいな。食べられちゃったりして」
「馬鹿。冗談言ってる場合か」
ぼくの言葉に、海は笑った。
「そう来なくっちゃな。もっと、楽しませろ!」
ゼガオンはそう言うと、両手に持った短刀で襲いかかってきた。
『二人で正面から行くぞ!』
海にテレパシーを送り、同時に気の刃を飛ばす。
ぼくたち二人はゼガオンが刃を撃ち落としている隙に接近し、槍による高速の突きを入れた。
正面から二人で行くことで、さすがに何発かはクリーンヒットする。ぼくたち二人の狙いは関節の継ぎ目だった。甲虫由来のプロテクターなら、関節部分は守られていないはずだった。
だが、ゼガオンもそこが自分の弱点であることは承知しているのだろう。防御は完璧でぼくらの攻撃はことごとく跳ね返された。
逆にぼくらの傷は増えていった。
プロテクターの防御を貫通することは無かったが、攻撃を食らう度に打撃力が肉体にダメージを与えていくのだ。
加速能力は同等。
防御力もほぼ同等。
パワーとスタミナは向こうが上。
二人いる分、手数はこちらが上。
だが、戦いの技術に差があった。
ふらふらとしそうになるのを歯を食いしばって、立ち向かっていく。
すると、ぼくの生体レーダーに今まで感じなかった、二人の人間が引っかかった。
海も同時に気づいている。
ぼくと海は目配せをしあって、何事も無いかのように攻撃を続けた。
絶対にゼガオンに気づかせるわけにはいかない。
その二人は光学迷彩で姿を隠し、捕まっている人質に向かって近づいていった。
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