第35話 ゼガオンの従者

 二階に上り、壁から廊下を覗く。

「すぐ、そこがぼくの教室なんだが……」

「いるな」


「ああ……」

 ぼくと海は慎重に歩を進めた。


 廊下から教室を覗く。

 暗い部屋の中に、机と椅子は通常どおり並べられたままだ。


 すると、中央の机の上に一人の人影が、座禅を組んでいるのが見えた。


「逃げも隠れもしない。やってこい……」

 そいつが言った。その声は冷酷な響きを持っていた。


 ガ、ラララッ!!

 一気に教室の戸を引くと、中に踏み込む。


 ガチャンッ!!

 同時に、そいつの座っていた机が音を立て倒れる。


 黒い塊となったそいつが跳ぶように向かってきた。右手に長い日本刀のようなものを持っている。


 もの凄いスピードだった。

 全身の毛がチリチリと逆立ち、反射的に加速能力を発動させていた。


 机の上を跳ぶように移動する。

 しかし、足場が安定しない分、加速のアドバンテージがほとんど無い。


 敵の斬撃は、ぼくらの加速能力に追いついて、身体を掠めた。


 ギャリ、リッ!!

 体表を覆う体毛の硬質化プロテクターを滑っていく。


 海が左手のブレスレットから鎌状の気のヤイバを打ち出す。そいつは目には見えないその攻撃を正確に打ち落とし、海に肉薄した。


 至近距離に来たそいつに、海はブレスレットを槍の形へと変化させ、突き出した。

 ぼくは光線銃の形へと変化させ、狙いを付ける。


 レーザーを撃ち出そうとしたした瞬間、あらぬ方向から頭部に打撃を喰らった。

 あまりのスピードに、体毛による攻撃の感知が追いつかない。


 続けざまに打撃が飛んできたのを、海が槍で振り払った。

「達也っ! もう一人いるぞ!!」


 ぼくはその場で何回も転がって、大きく跳び退りながら立ち上がった。

 もう一人のそいつは手に、長い柄のハンマーのような武器を握っていた。


「ふはははは。死ね、死ねっ!!」

 そいつの身体の前面が、観音開きに開いた。


 シュ、ボ、ボ、ボ、ボッ、ボッ!!

 無数の小型ミサイルのようなものが撃ち出される。


「人間じゃ無いのかっ!?」

「パニクるなっ!!」

 海の言葉で我に返る。


 ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガッ!!

 光線銃で目の前のミサイルの弾幕を素早く撃ち落としていく。海も一緒に撃ち落としたが、撃ち漏れたミサイルはさらに向かってきた。


 ぼくらは必死で追尾型の小型ミサイルを避けた。

 ボ、ボ、ボ、ボッ、ボシュッ!!

 避けたミサイルは、教室の壁に次々に当たり、穴を穿った。


 距離を取ると、煙の向こうに腕を組む二人組の影が見えた。

「ひゃははははっ。二対二だなア……」

「ふひひひひひっ。そんなに強そうでも無いなア……」


 口々に言う二人に、ミサイルが当たって燃える机や椅子の炎が映る。彼らは銀色のメタリックボディを持っていた。


「あれだけ、撃てば、レーザービームはしばらく出せないだろオ……?」

 先ほど、ミサイルを撃ち出した方、が首を傾げながら言った。


「お前ら、何なんだ? AIロボットか? ニュースでは自衛隊を襲ったのは、ゼガオンともう一人みたいな感じだったが……?」


「我々はゼガオン様の従者、マルスとアレス様ダ。ただのAIロボでは無イ。エリート中のエリートなのダ。それに、元々二体ダ。そのニュースとやらは知らン」


 AIロボにエリートとかあるのかは分からなかったが、ともかく目の前のロボット、マルスとアレスはそう言った。


 ぼくと海は、顔を見合わせると、

「行くぜっ!!」と叫び、全開で加速能力を発現した。


 マルスとアレスは、ぼくらの動きに戸惑うこと無く確実に補足し、攻撃してくる。

 マルスは刀。アレスは長い柄のハンマーを振り回した。


 ぼくらのブレスレットには、マルスたちに言われたとおり、光線を撃ち出すだけのエネルギーは残っていなかった。海もぼくも二人とも槍に変化させ、敵の攻撃とまともに打ち合った。


 ギャンッ、ガンッ!!

 教室の暗闇に、お互いの武器が打ち合う火花が散る。


 相手が距離を詰めてくるため、出す時の隙が大きくなる気の刃を出し辛い。


「くそっ」

 ぼくはマルスの足にタックルをして教室の床に転がし、刀を持つ右手をひねった。

 刀が床に落ちるのを確認すると、槍の柄の部分で頭に鉄槌を喰らわせた。


 二発、三発……

 しかし、マルスは横に身体を滑らせながら、ぼくを押し飛ばした。


 立ち上がろうとするマルスの頭に、海が槍を振るおうとすると、もう一体のアレスの体の前面が開いた。


「ヤバイ! あのミサイルだ――」


 シュ、ボ、ボ、ボ、ボッ、ボッ!!

 ぼくが叫んだときには、撃ち出されていた。


「コンビネーションだ!!」

 海が叫んだ。

 ぼくは一瞬で海の意図することを理解した。


 真の命の危機に遭遇した瞬間、ぼくらは本当の意味で深く繋がったのだ。それは、あのアイとの訓練で掴みかけた感覚の、さらに一歩上の段階だった。

 ――ぼくは海。海はぼくだ。


 ミサイルの全てがスローモーションのように見えた。二体のロボットの動きもだ。

 二人で全てのミサイルを避け、かき分けるように手のひらや手の甲で軌道をずらした。


 二体のロボットが、ぼくらの方へゆっくりと顔を動かすのが見える。

 ぼくがマルスの右腕を、海がアレスの左腕を掴んだ。


 大きく振り回し、二体を正面からぶつける。

 同時に大きく跳ぶと、遅れて跳んでいたミサイルを二発掴んで、向きをマルスに変えた。

 海もアレスに向かってミサイルの向きを変えた。


 ミサイルがマルスとアレスにぶつかっていく。

 ミサイルがぶつかった手足が、少しずつ損壊していくのをスローモーションのように認識する。


 海とぼくはそれぞれマルスとアレスの前に移動した。ブレスレットを変化させた槍を胴体の中心部に槍を突き込み、かき混ぜる。


 マルスがこちらをゆっくり見上げる。

 後ろに跳び退った。


 ガ、ガチュンッ! バ、バ、バッ、ド、ドオンッ!!

 金属の破壊される音と、爆発音が遅れて響き、オレンジ色の光が走った。


 二体のロボットが破壊されたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る