第32話 戦闘狂(2)
「一体、どんな奴がやったんだ?」
海が顔をしかめる。
「ひょっとすると、テロリストかなんかの可能性もあるんじゃないか?」
ぼくがそう言うと、
「無くは無いが、普通の人間が二人であんなことをやれるか? 過激派みたいな奴らにあんなことがやれるとは思えない。立川駐屯地って結構な規模だぞ」
海がため息をつく。
「じゃあ、やはり追っ手か……」
ぼくは頷きながら、ふとコーラルが周りをせかせかと歩いていることに気づいた。
「コーラル。また、何かあったのか?」
「スミマセン。早速ト言エバイイノカ……ソノ追ッ手ト思ワレル方カラ通信ガ入ッテマス。コノ船ノ周波数、コールサイン、全テバレテルミタイデス」
「くそっ。一体、どんな奴なんだ……」
ぼくは呟いた。
「トリアエズ、オ繋ギシマス」
コーラルが言った途端、目の前の空間に誰かが映し出された。さっきのテレビ映像と異なり、3Dの立体映像だ。
「ホログラムってやつか……これって等身大か?」
「でかいな。やばい、強そうだぜ」
ぼくと海は口々に呟いた。
目の前に現れた男の身長は二メートルは悠々とありそうだった。上半身はぴったりとしたタンクトップで、下半身は銀色のぴったりとしたズボンだったが、その布地を持ち上げる筋肉は、まるで岩のように巨大だった。
髪型は、前と後を極限まで刈り上げたスタイルで上の部分が立たせてある。
アノンダーケ星人らしく緑色の肌に、緑色の目をしていた。髪の毛にも緑色のものが混じっている。
映像はしばらくの間、チラチラと揺れたが、程なくしてはっきりとした映像を結んだ。その途端、こっちを見た男がニカッと笑った。どうやら、あちらからもこちらが見えているようだった。
「おう。アステリアから訊いてはいたが、お前たち二人が王子か!? 随分弱っちそうだな」
男はいきなり失礼なことを口走った。
「あなた、何ですか?」
「俺か? 俺はなゼガオンて言うんだ。いわゆるハンターだ。他の奴らに会ったことあるだろ?」
「ええ。追っ手ってやつですよね……アステリアさんとカルラはどうしたんですか?」
「とりあえず、生きてはいるがな……二人には寝てもらっている。お前たちをこのままにして帰るなんて、あほなことを考えていたからな」
ゼガオンは上腕と前腕に大蛇のような筋肉をうねらせ、大きな犬歯を見せびらかすように口を開いた。
「まさか、お前たちもアステリアの言う平和的解決とやらを考えていたのか?」
「どうするかは決めていませんでしたが、戦わずに済むなら、そっちがいいかなとは思ってました」
ぼくはゼガオンの質問に正直に答えた。
すると、
「まあ、そんなつれないことを言うな。な!」
ゼガオンは笑いながら言った。ぞっとするほどに、凶悪な笑顔だった。
「どういうことですか?」
「俺は戦うことが大好きでな、伝説の始祖の力を受け持つという王族とぜひ手合わせしてみたいんだ。俺の宇宙船で一方的にぶち殺してもいいんだが、俺の好みは肉弾戦でね。お前たちの力を存分に発揮させた上で、それを力で叩きのめしたいってわけだ」
「始祖って、要は元々、地球から出ていったっていうアノンダーケ星人の元を作った人ってことですか?」
「よく知ってるじゃねえか。その相手の攻撃を読む力や、加速能力は始祖に近い王族にしかない力なんだと聞いているぜ。その力をたっぷりと味わった上で、俺が磨いてきた、パワーとテクニックで粉砕してやりたいんだよ。完膚なきまでにな」
「ちょっと、話がかみ合わないような気がするんですが、元々ぼくらを殺すことが使命なんですよね?」
「厳密には、それは俺のミッションでは無い。俺がお前たちと戦いたいのは純粋に俺の趣味だ。だが、結果的にギルディア本部の意向に沿う結果になるというだけでな」
「そう言うことですか……だから、アステリアさんたちを腕づくで黙らせたってことなんですね……」
ぼくはやっとゼガオンの言っていることに合点がいった。要するにこいつは何でもかんでも暴力で解決するタイプで、強い相手と戦うことが大好きな戦闘狂ってことだった。
「そうだ。やっと、分かったか」
ゼガオンが声を上げて笑った。
「あの、確認ですが、自衛隊の基地を襲ったのもあなたなんですよね?」
「ああ。あれか……不意打ちしたからかな。意外にもろかったな」
「それも、楽しみとやらでやった感じですか?」
「ああ。楽しみというか、暇つぶしみたいなもんだな」
ゼガオンの笑い声が大きくなった。
「人も一杯死んだんですよね?」
「まあ、そうだな……だが、あいつら戦うのが仕事なんだろ?」
笑いながら話すゼガオンに怒りがわき上がってくる。
ぼくはそれ以上言葉が続かなかった。怒りの表情で睨みつけていると
「あのさ、タツヤだっけか。お前の通っていた学校があるだろ? そこにカイも一緒に来い」
ゼガオンが笑うのを止めて言った。
「……嫌だと言ったら?」
怒りで声が震える。
「これを見てもそう言えるか?」
ゼガオンはそう言って、何かを引っ張るような仕草をした。どうも、カメラの画角の外から何かを引っ張ってきたようだった。
ぼくは、それを見て絶句した。
それは、猿ぐつわで口を塞がれ、後ろ手に縛り上げられたアイだった。
アイは何も言えず、ただ首を振っていた。必死な形相で首を振る姿が痛々しい。
「来なければ、こいつを殺すぜ」
ゼガオンが楽しそうに言う。
「まあ、それでも、来ないかもしれないからな。こいつらも、用意した」
ゼガオンがそう言うと、画面ごと移動する。カメラそのものを動かしたようだった。
ぼくと海は、再び絶句した。
それは達也の祖父母と海の父母だった。
「俺にはいわゆる出来損ないとは違う、出来のいい従者がいてな。そいつが、こいつらを捕まえてきてくれたんだ」
ゼガオンはそう言って声を上げて笑った。
「アイガ、二人ノ実家ニ放ッタ偵察ドローンモ、全テ壊サレテイマス……。コノ映像ハ本物デアル確率ガ高イデス」
コーラルが背後から言った。
「……アイ、じいちゃん、ばあちゃん、大丈夫?」
「父さん、母さん……必ず、助けに行く」
ぼくと海は口々に言った。
僕の祖父母も、海の父母も、アイと同じように猿ぐつわを噛まされ、後ろ手に縛られていた。
「地球で、こう、いうのを……なんて言うか、知ってますか?」
ぼくは絞り出すように言った。
「何て言うんだ?」
「卑怯者って言うんだよ」
「ふふふ……あのな、俺は別にこいつらを使って、何もできないお前たちを痛ぶろうなんて、これっぽっちも思ってないんだぜ。こいつらはお前たちを呼び寄せるための餌なんだ」
ゼガオンは冷酷な表情で言って、言葉を続けた。
「まあ、来なければぶち殺すがな。地球の時間で二十二時までに学校に来い。あと一時間後だな……。一分でも遅れればこいつらは殺す。そして、俺の戦闘宇宙船でお前たちの乗ってる宇宙船ごと焼き払う」
ゼガオンが冷酷にそう言い放つと、突然、目の前のホログラムは消えた。
「通信ガ途切レマシタ……」
コーラルの声が、背後から空しく響いた。
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