第31話 戦闘狂(1)

 アステリアたちと話し合いをした後――

 ぼくは海と一緒に、すぐに宇宙船に戻った。そして、AIロボのコーラルに

「ダメだった。元の場所へ帰ってくれないか」とだけ、頼んだ。


 コーラルは、詳細について恐らく知っていたのだと思う。何も答えずにぼくに言われるとおりにした。

 宇宙船は檜の枝の上に戻るとすぐに、変形し、家の形へ戻った。


「海……少し、一人で考えたい」

 ぼくが言うと、

「ああ。そうした方がいい。俺も外に出てくる」

 海はそう答えた。海の声は少し固かった。


 ぼくは外に出ると、一人で枝の上で座禅を組んだ。

 大檜を中心に、周りの植物の波動を感じながら心を落ち着かせ、アイとのことを考えた。


 最初に出会った日のこと。

 転校生として、学校にやってきた日のこと。

 黒田たちに絡まれ、助けられた日のこと。

 追っ手に殺されかけ、助けられた日のこと。

 アノンダーケ星人としての秘密を明かされた日のこと。


 アイのことが愛おしく、だからこそ心配で手放したくない。何とか助け出して、一緒に暮らすことはできないのか――


 同じ考えがグルグルと巡る。


 アイを地球に残し、一緒に暮らしていくためには彼らを殺さなくてはいけないのだ。結局、平和的に解決する道は一つしかなかった。それはアイを諦めることだ。


 気がつくと辺りは真っ暗になっていた。

 灯りのついた家に入ると、海が既に帰っていた。


「海、アステリアさんの申し出だけど、どうしたもんかな?」

「迷っているのか?」


「うん。正直そうだ」

 明日の朝十時までに、アイのことを諦め、アイごとアノンダーケ星へ帰ってもらうかどうかを伝えなくてはいけない。だが、何度考えても結論が出ない。


「そうか……気持ちは分かるよ。だが、アイさんを取り戻すと言うことになれば、それは彼らと殺し合うことになるんじゃないか?」


「そうだな」

 ぼくはため息をついた。頭をガシガシと掻いて、机に突っ伏す。

 答えなんか出るはずが無かった。殺し合いは嫌だが、アイと離れるなんて考えられなかった。


 だけど、もし離れれば、ぼくらは平和な生活に戻れるのだ。アノンダーケ星人のフェロモンを消す術は既にアイに習っている。それに、何より海はその方がいいんじゃないか。極論すれば、アイと海は関係が無いといえば無いのだ。


 ぼくが海のことをじっと見ていると、

「お前さ……アイさんのこと、我慢したくないけど、俺のために我慢しようかなとか考えてるだろ? その方が平和的に解決できるとか」

「え。何で分かるの?」


「馬鹿。お前と俺は今や双子の兄弟を超える絆で繋がってるんだぞ。分かんないはずがないだろ!? 大体、昔からそうなんだよ。肝心なところで一歩を踏み出すのをためらっちまう」


 海は大きな声で笑った。

 ぼくもつられて笑ってしまう。


「何て言うか、無理すんなよ。俺たちはさ、普通の友だちじゃ無いんだ。お前とアイさんには幸せになって欲しいって本当に思ってんだぜ」

「うん。ありがとう……」

 ぼくは海の思いやりに胸が熱くなった。


「これは俺の印象だが、アステリアさんたちも、地球での暮らしに慣れてたような気がするんだよな。こっちでの暮らしを気に入ってるっていうか……うまく、話して本格的に移住させようぜ。どうしても戦いになったら仕方ないけど、殺すまではやらないように、気をつけよう。俺たち二人の能力を合わせればできるよ」

 海はそう言ってまた笑った。


 すると、コーラルが近寄ってきて、ぼくの肩を叩き、

「アノウ、ヨロシイデショウカ」と、言った。もの凄く申し訳なさそうだ。


「うん。どうしたの?」

「スミマセン、オ話ノ邪魔ヲシテ……。テレビノニュースヲ見タホウガ、イイト思イマシテ」


「え。何か、緊急のニュースでも入ったの?」

「ハイ。新タナ追ッ手ニ関スル、ニュースノ可能性ガ高イデス……」

 コーラルはそう言うと、右手を挙げて空間を四角くなぞった。

 すると、そこの空間に見慣れたニュースキャスターの映像が現れた。


「テレビも見れるのか?」

「エエ。ソウイウフウニ、改造シマシタノデ」

 コーラルはそう言うと、掲げた右腕の親指を回してテレビのボリュームを上げた。


「本日、夜二十一時過ぎ、陸上自衛隊の立川駐屯地が何者かの攻撃を受けました。繰り返します。本日、夜二十一時過ぎ、陸上自衛隊の立川駐屯地が何者かの攻撃を受けました……」

 ぼくと海はニュースの画面に釘付けになった。


「駐屯地は壊滅状態とのことです。そして、その襲ってきた何者かは、既に撤収してその場にはいないとのことです。駐屯地のヘリコプターや戦闘車両もことごとく破壊されてしまっているとのこと。突然のことで、対応が遅れたのでは無いかとの分析もありますが、まだ詳しいことは何も分かっておりません。本日の十九時三十分頃に起きた航空自衛隊戦闘機の撃墜との関連も言われておりますが、詳しい情報はありません……」

 ニュースキャスターが蒼白な顔でニュースを読み上げている。


「あ、ちょっと、待ってください! 新しい情報が入りました。基地の監視カメラを分析した結果、襲ってきたのは二人組の可能性が高いとのことです……しかし、たった二人でこのようなことができるものでしょうか。立川駐屯地は壊滅状態のことです……」


 数秒間だったが、もの凄いスピードで移動し、素手で装甲車を壊す大柄な人影と自衛隊員をなぎ倒していく小柄な人影が映し出された。


「マジか……アステリアさん、とは関係ないよな……」

「映像ヲ分析シ、タツヤサンタチノ報告ニアッタ人タチノデータト照会シマシタガ、別人の可能性は99.9%デス」


 コーラルが言った。その抑揚の無い断定的な言い方に、絶望感が募る。

 ぼくらは手に汗を握り、テレビニュースの画面を凝視し続けた。

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