第24話 異変

 ぼくと海は実戦訓練の後、ブレスレットの使用法とその力について、アイからレクチャーを受けた。


 ブレスレットは、生命力をエネルギーとして駆動される。そして、着用した人がイメージした武器へと変形する。また、使いこなすためにはブレスレットと着用者の神経が完全に繋がる必要がある上、着用者自身が武器の明確なイメージを持つ必要があるとのことだった。


 ただ、光線銃は連発できる弾数に限りがあるとのことだった。弾のエネルギーが生命力じゃ無く、光線用にチャージされているものだからなんだそうだ。


 ブレスレットが自分の神経と繋がっている感覚は既にある。先ほどの訓練で得た実感も合わせて考えると、今以上に使いこなす鍵は、どれだけ具体的に武器のイメージが持てるかにありそうだった。


 レクチャーの後、ぼくはすぐに海を瞑想に誘った。二人で向かい合って座禅を組んで瞑想し、再び深く繋がる。そして、海の会得した光線銃のイメージとぼくの会得した槍のイメージを共有した。


 さらには、訓練場であるドームの中で、ブレスレットの変形と攻撃を何度も、何度も繰り返した。


 これに加速能力、攻撃の察知能力、そして敵の攻撃をプロテクトする能力が加わり、二人のコンビネーションも合わさる。追っ手がどんな奴でも、簡単にはやられないだろうとぼくらは考えていた。


 その日の夜――

 ぼくと海、そしてアイは檜の座禅を組む枝の上から夜空を眺めた。

 辺りに灯りは無く、満天の星が無数に煌めいている。


「どこにアノンダーケ星があるんだろうな?」

「あっちかな?」

 アイが指さす方角を見るが、夜空にはたくさんの星があり、全く分からない。


「でも、アイさんは肌の色も瞳の色もぼくらと変わらないから、余計に宇宙人っぽくないよね」

 海が呟く。

「確かに。でも腕が触手に変わるけどね」

 ぼくがそう言うと、


「それを言ったら、タツヤとカイも地球人には無い能力があるでしょ」

 アイが頬を膨らました。


「まあ、そうなんだけどさ……。始祖と呼ばれる人が、超古代文明だかのテクノロジーを使って宇宙に出たと。元々アノンダーケ星人も地球人に由来しているわけだから、ぼくらに種子が根付くのもおかしくはないっていう理屈だけど……何だか、壮大すぎて、やっぱり現実感が無いよね」

 ぼくは満天の星空を眺めながら言った。


「本当だな。こうやって夜空の星を眺めていると、自分たちのちっぽけさを思い知らされる。もう、そんなくだらない戦いとか止めちゃえばいいのにな」

 海がぼくの横で、しみじみと言った。


 ぼくは会ったことのない女王のことに思いをはせながら寝転んだ。冷たい夜気が、昼間の訓練の疲れを心地よくいやしていった。


      *


「チョット、起キテクダサイ……」

 機械的な音声が聞こえてくる。何だ、夢でも見てるのか――

 ぼくはベッドの上で寝返りを打ち、目をこすりながら開いた。


 腕時計を見ると、時間は昼の十二時を過ぎている。昨日の訓練がハードすぎてその時間まで寝込んでしまったらしかった。


 慌てて起き上がると同時に、目に入ってきたものに、ぼくは驚き身構えた。

 海も同時にベッドの上に立ち上がり、驚愕の表情をしていた。海のブレスレットが光線銃に変化している。


 ぼくらの目の前には、昨日ドームの訓練場で戦った植物の蔦や根の巻き付いた、あの男性型ロボがいたのだ。いや、よく見ると、家の中の蔦が中心で根は巻き付いていないようにも見える。


「お前、昨日やっつけたはずだよな? これも訓練か!?」

「アレハ、私ジャアリマセン。私ハ別ノ個体デス。ソシテ、コレハ訓練デハアリマセン」


「いや。何て言うか、そんなふうに話しているのはおかしくないか? 何なんだお前?」


「私ハ、コノ船ノAIデス。身体ハ、アナタタチガ倒シタ型ト同タイプデスガ、頭脳ハ全然違イマス。私ノコトハ、コーラルト呼ンデクダサイ」


「コーラル?」

「ハイ」


「そういうこと……か。いや。で、何の用なんだ? 昨日はいなかったよな?」

「アイガ、出カケル前ニ、私ヲ作ッテ行ッタノデス」


「行った? どこに?」

「知リ合イノ所ダト言ッテイマシタ。ズット昔カラ知ッテイル人。正確ナ場所モ分カッテイマス」


 コーラルの説明によると、どうも、追っ手の男と一緒に来た従者(アイが言うところの出来損ない)が知り合いらしく、アイに連絡を取ってきたのだとのことだった。市内の新しいショッピングモールのどこかにその知り合いの拠点があるらしい。


 アイは、登校時に使っていた一人乗りのエアバイクに乗って出かけていったが帰ってきていない。アイとしてはその従者と話を付け、戦いを避けられればと考えて出て行ったらしいのだが、時間がかかりすぎているとのことだった。


 ぼくは、アイの様子を見に行くべきだと考えたが、いかんせん足になる乗り物が無い。

「そのエアバイクとやらは他には無いのか?」

「アレ一台ダケデス」


「そうか………」

 ぼくは腕を組んだ。じいちゃんに迎えを頼もうかとも考えたが、それだと時間がかかりすぎる気がする。


 しばらく考えていると、

「私ガ連レテ行キマス」とコーラルが言った。


「連れて行くって?」

「コレハ元々、宇宙船ナノデスヨ」

 コーラルがそう言うと、壁の操縦盤から操縦桿やスイッチ類が生え出て、てんで勝手に動き出した。


 ギッ、ガチャ、ギギッ、フィーン、ガガッ……

 家の至る所が軋み、見る間に変形していく。

 気がつくと、四角の直方体だった部屋が滑らかな楕円形へと変化していた。


 床から運転席のような椅子も生え出て、窓が正面に大きく開ける。ここは内側なので見えないが、外から見たら宇宙船らしい形に変形したのだろう。


「地球航行モードニ変形シマシタ。椅子ニ座ッテクダサイ。地球人ニ見ラレナイヨウ光学迷彩ヲカケテ行キマス。マタ、自衛隊ニ発見サレナイヨウ、デキルダケ低空ヲ飛ビマス」


「ちょ、ちょっと、いいか? これってどうやって飛ぶんだ? エンジンとか付いてるのか? とても、そうは見えない……」

 海が訊くと、


「元々ハ一人乗リデスカラネ。超小型ノ核融合推進エンジンガ、付テイマス。丁度、アノクローゼットノ裏ニアリマスヨ、デハ、行キマスヨ!!」

 コーラルがそう答えた途端、椅子に体が押しつけられた。だが、それも一瞬のことだった。


「着キマシタ。ショッピングモールデス」

 ぼくらは椅子から降りた。


「さっき、光学迷彩って言ってたけど、この宇宙船、外からは見えないようになってるんだよな?」


「ソウデス。コノ船ハ上空デ待機サセテオキマス。アイヲ、コノ下マデ連レテキテクダサイ。連レテキタノガ見エタラ、拾イマス」


「分かったよ。任せておいてくれ。だが、その旧知の人っていうのはどういう知り合いなんだ?」

「一緒ニ女王ニ、庇護サレテイタソウデス。詳シイコトハ聞イテイマセンガ……」

「そうか……分かった」


 ぼくはそう言うと、海と目を見合わせ、ブレスレットを身につけた。

 出入り口まで歩いて行くと、すぐに四角く開く。


「なあ、アイさんの詳しい居場所はこっちでは分からないのか? アノンダーケ星の科学力なら生体反応をサーチしたりできそうだけど」

 海が訊くと、


「ソンナ便利ナ機能ハアリマセン。タダ、アナタタチ二人ニハ、近シイ人ト繋ガル能力ガアルノデハナイデスカ?」

 と、コーラルが答えた。


「いや。そんな近しくも無いが、要は彼女の反応というか繋がりを探りながら、見つけてみろってことか?」

「マア、ソウイウコトデス」


「海。そういうことだそうだ。お前とぼくとの間なら簡単なんだけどな」

「まあ、でも、やってみるしかないよな」


「ああ。いきなり、戦いになる可能性もあるが、一緒に行ってくれるのか?」

「何を言ってるんだ。一緒に行くに決まってるだろ」

 海は頷くと、ぼくの肩をパンとはたいた。


 ぼくらは円筒形の光の中に足を踏み出した。

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