第23話 コンビ(4)
「あなたたちの相手はこれよ」
アイはそう言うと、箱形の機械の蓋を開けた。中から、小さな人形の骨組みを四体取り出す。
それらを地面に置き、箱の中で手を動かす。
すると、箱形の機械の上に光のタッチパッドらしきものが現れた。
その上で指を開いたり、閉じたりしながら、手のひらを動かす。
カチ、カチッ……
それぞれの骨組みから、音が鳴った。
途端に、周りの雑草や地面の中から、植物の葉や緑色の蔦、根が飛び出し、骨組みに絡みつく。
最初は小さかった骨組みは、見る見るうちに巨大になっていった。身長が二メートルを超えるそれには、中心に埋没してしまった骨組みの印象は最早無かった。
「何だこれ?」
「うーん。私がプログラムした戦闘用のプログラムが入ってるわ。訓練用のロボって感じ? それぞれが自律して動くわ」
「ロボット? いや、いや。なんかファンタジーものに出てくるモンスターみたいだぞ。これ……」
海が突っ込むのを聞いて、本当その通りだなと頷く。
「モンスターね。じゃあ、グリーン・ゴーレムって名前にする! みんな手加減はしないわよ。頑張ってね!」
「だから、どこでそんなの勉強したんだよ……」
文句をこぼすぼくの方を見て、アイは笑った。
四体のグリーン・ゴーレムは横一線に拡がると、二体ずつぼくらに向かってきた。
「ヤバッ!」
「達也っ。本気で行くぞっ!」
すぐに加速能力を発現させると、それぞれゴーレムの背後に回る。
ゴーレムは頭だけ回転させると、そのまま向かってきた。
こいつら関節の向きとか無いのか!
ぼくは止まること無く走り、今度は横から体当たりをかました。肩を中心に硬いプロテクターが生じる。
向こう側で海が跳び蹴りをしているのが見える。諧の足にもプロテクターが生じていた。
ゴーレムが体当たりにより、一瞬揺れる。
組み付いて左右に振るが、びくともしない。
ゴーレムは巨大な腕を振って、ぼくの左右から殴った。
ぼくは、攻撃が来たのを読むと、加速してゴーレムを手で押しながら後ずさった。
ゴーレムが距離を取ったぼくを追いかけてくる。
それは、かなりのスピードだったが、加速能力と攻撃察知能力により、悠々と避ける。
だが、いつの間にか距離を詰めていた二体目のパンチ攻撃が、後方から襲いかかった。
ぼくはその場に素早くしゃがみ込む。頭上をもの凄い音を立て、パンチが通り過ぎる。本当にギリギリのタイミングだった。
ぼくは海に向かって走った。海も同じ考えであることが直感的に分かる。
二人で並ぶと、ゴーレムは四体並んで襲いかかってきた。
ぼくは右腕のブレスレットを、海は左腕のブレスレットを敵に向けてかざした。
四体のゴーレムは、先ほどと同じようにわずかに攻撃タイミングをずらしながら連携して襲いかかってくる。
ぼくらは一体目の敵に、ブレスレットから光線のようなものが出るようにイメージした。だが、何も出ない。
やはり、そうか。
ぼくと海は、次の瞬間、二人で交差するように前に走る。
あまりのスピードにゴーレムはどちらを攻撃していいのか分からずに混乱した。
横に回りながらジャンプすると、ぼくと海は一番左端と右端のゴールムの頭にブレスレットを痛烈にぶつけた。
やはり変形も何もしないが、何度も打ち付ける。
そのたびに、ブレスレットのゴーレムにぶつかった部分が、硬く強くなっていく感覚があった。
後ろに跳び退りながら、ゴーレムと距離を取る。
「少しだけ、こいつと繋がったかな……。海! やっぱり明確なイメージを持つ必要があるみたいだ! 光線みたいなものより、肉体感覚が伴うものがいいはずだ。とりあえず自分の拳の周りを、巨大な硬質の拳が囲っているイメージで行こうぜ!」
「分かった!」
海はそう言うと、相手の攻撃をかいくぐりながら、真ん中のゴーレムに近づき、ボディブローを何発も見舞った。ちょうど腹の部分を覆う植物が無くなったゴーレムはその場に突っ伏す。
ぼくも負けずに、真ん中の相手の攻撃を避けつつ、横から巨大で硬質な手刀をイメージしてボディを切り裂いた。腹の部分で真っ二つになったゴーレムは地面に突っ伏す。
二体目がそれぞれに怒り狂ったようになって向かってくる。
ぼくらは縦に並んだ。
海が前、ぼくが後だ。
海の考えていることが分かる。戦いの場という集中力が必要な場所にいるからだろう。あの瞑想しているときほどではないが、深く繋がっている感覚があった。その中で、お互いの武器の使い方についてもぼくらは共有し、深く理解した。
「せいっ!!」
敵と距離がある中で、海が正拳突きを左で放った。
拳から、巨大な気の固まりのようものが打ち出され、ゴーレムの足が吹き飛ばされた。
もう一体のゴーレムが驚いて、そちらを見た瞬間、ぼくは海の背後から跳び上がり、手刀を振り抜いた。
ぼくの右手からは巨大な鎌状の気の固まりのようなものが飛んだ。一瞬でゴーレムの首が飛ばされる。
ぼくは地面に降り立つと海とがっちり握手をした。
「やるわね。さすがのコンビネーションだし、その武器も結構使いこなせてるじゃ無い。それじゃ、真打ちに登場してもらうわ」
アイはそう言って、もう一体人形の骨組みを取り出して、地面に置いた。横にあの追っ手が持っていたカード型のガジェットも置く。
骨組みには先ほどと同じく植物の蔦や根が巻き付いていったが、今度は普通の大人の男性ほどの大きさだった。
目の前のカード型のガジェットを拾うと、光線銃に変形させる。
「ねえ、アイ。こいつ。あれ、撃ってくるの?」
「ええ」
「マジか! 海、あれ光線銃だ。全力で避けろ!!」
ぼくは叫んだ。矢継ぎ早に、繰り出されるアイのロボット攻撃にぼくは慌てていた。
そいつはすぐに光線銃を撃ってきた。
公園で撃たれたときよりも威力が抑えられている感じだったが、何発も続けて撃ってくる。
ぼくらは敵の照準を付ける動きと、発射ボタンを押す動きを読みながら、加速能力で避け、パンチと手刀を遠くから放つ。
だが、敵もぼくらの攻撃を完璧に避けきる。
「何だ、あれ? なんで避けれるんだ?」
「加速能力こそ無いけど、この子もあなたと同じく空気のわずかな流れから攻撃を読むことができるのよ!」
アイが言った。
ぼくと海は顔を見合わせた。今、閃いた攻撃を試そうと考えていた。おそらく、というか、間違いなく海も同じ考えのはずだった。
ぼくはジグザグに走りながら、そいつの足下を手刀から飛ばす鎌状の気で抉った。
海もジグザグに走る。
敵の光線は、ことごとく外れた。ぼくらの加速能力について来られないのだ。
ぼくの攻撃が敵の足下を抉る度に、敵の足下は穴だけになり徐々に動きが制限されていく。
ずっとぼくからの攻撃が中心で油断もあったのだろう。海が気のパンチを遠くから打ち込んだ。加速した中で打ち込むパンチだ。
敵はその攻撃を読んでいたが、ぎりぎりで躱そうとして、足下の穴に蹴つまづいた。
そこにぼくの攻撃が襲う。
敵の胴体は切り離され、その場に倒れ動かなくなった。
「よしっ!」
叫ぶぼくに、敵の光線銃が襲いかかってきた。倒れたと思ったら、まだエネルギーが残っていたのだ。
慌てて加速しながら避けるぼくの左腕を敵の攻撃が掠め、皮膚が結構な範囲で焼け焦げる。
その時、海のブレスレットから光線が放たれた。
半分になった敵の胴体が吹き飛んで、ドロドロに溶ける。
同時に、ぼくのブレスレットは槍のように伸びて、敵を串刺しにしていた。
「海くん。やったわね!」
アイがその一撃を見て拍手した。
「あんなものも出せるんだな?」
ぼくがアイに訊くと、
「実際に光線銃のイメージを掴んだからだね」
アイは言った。
言っている側から、ぼくの左腕の傷にアイは手を当てた。
「これくらいなら、すぐに治るわ」
そう言って、手のひらから修復細胞を出す。優しく包まれた左腕の火傷と裂傷の痛みは、すぐに治まる。
「じゃあ、もう少し、その機械の使い方をレクチャーするわ。その槍も凄いけど、できれば海くんのように、タツヤも光線を出せるようにしないとね。もうマシンはあなたと繋がってるから、後は使いこなすだけよ」
マジか。まだ続くのか。
ぼくは、やる気満々のアイの顔を見て肩を落とし、苦笑いしている海にサムズアップした手を掲げて見せた。
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