第21話 コンビ(2)
海とぼくは、地上から遥かに高い枝の上で、向かい合って座禅を組んでいた。
アイが家の入り口に座って、静かに見守っている。
強く風が吹き、枝が揺れた。
「大丈夫か? 海」
ぼくの問いかけに、穏やかな目で海が頷く。
海の落ち着きようは、不思議なほどだった。
「全然怖がってないな? 最初、ぼくは凄い怖かったけどな」
「うーん。この檜と周りの自然のおかげかな……不思議と落ち着くよ」
「そうか……まあ、それは分かるような気もするな」
ぼくは海の言葉に頷くと、大きく息を吐いた。
「よし、じゃあ、自分の心の奥深くに潜るイメージだ。自分の根っこの部分にあるルーツを探すんだ。最初は呼吸を深く、大きくしよう」
海はぼくの言葉に頷くと、大きく深呼吸した。呼吸は徐々に深くなっていき、回数が減っていく。途中、強い風が何度か吹き、枝も大きく揺れたが、動ずること無く静かに、静かに自然と一体化していく。
ぼくも深く呼吸を繰り返し、檜を中心に森の自然と一体化していった。森の木々の一本、一本、アイや海の波動を感じながら、自分の精神の奥の深いところへと下りていく。
海から伝わる落ち着いた波動が、彼が精神の奥深くへと潜っていることを物語っていた。
さすがだ――
海が瞬く間にコツを掴んでいたことに舌を巻くと同時に、それも当たり前なのかもしれないとも思う。海が種子との融合により、仲間はずれにあい始めたのはぼくより一年以上早いのだ。
ぼくは海に感心しながらも、邪魔をしないように自分自身も瞑想を続けた。
だが、一日目はそこまでだった。
「海。どうだった?」
家に帰って海に訊くと、
「うん。まあ、正直まだよく分かんないよ。もう少しで何かが分かりそうな気もするんだけどさ」
海は言った。
「明日は少し違うやり方を試すよ。今日やった瞑想がベースになるから、今日の訓練は無駄にはならない」
ぼくは海にそう伝えた。
次の日も同じように座禅を組み、瞑想をした。そして、ぼくらは次の段階へと進もうとしていた。
「海。昨日と基本同じだが、自分のルーツの更に奥の部分。深い、深い海の底、深海に潜るイメージだ。そこで会おう」
ぼくはそれだけ海に伝えた。
海は黙って頷くと、目を瞑った。
それを見て、ぼくも目を瞑る。
呼吸を沈め、深く、深く潜っていく。
そしてぼくは、そこにたどり着いた。
そこは――音が全くしない、光も届かない静謐な空間。そこに、ぼくと海、二人の魂だけがあり、細かい繊維のようなパルスが繋がっている。
ぼくは語りかけた。
海。聞こえるか?
達也か。まるでテレパシーみたいだな。
本当だな。この状態にまで瞑想すると、こんなことまでできるんだな。
ふだんから、ここまで繋がてるかな?
いや、多分無理だよ。瞑想してるからこそだよな。
そうだな。
今から、海にぼくが得た力と記憶のイメージを送る。それが一番手っ取り早い方法だと思うからさ。
分かった。よろしく頼むよ。
ぼくは頷くと、イメージを海へ送った。
最初は緑に包まれた地球とは異なる大地。そして、優しい女性の笑顔だった。二人のアノンダーケ星の母の記憶。
そして、自分の身体の奥深くに双葉の植物が芽吹き、体のありとあらゆる部分に根が伸び、早く木が伸びていく様を送る。
これは、ぼくが、いやぼくの種子が力を得るために経験したことだ。
体のどこを変化させ、それをどう攻撃に使い、如何に守ることに使うのか。自分の持つ能力やその特性を教える。
うああああああ!!!!
海の魂は絶叫を上げながら、もの凄い早さで、ぼくに何が起こったのかを理解し、自分の中にある種子を見つめた。その様はぼくにも伝わってきた。
叫んでいたはずの海が、突然静かになった。
海は唐突に自分の力を理解したようだった。ぼくが送ったイメージにより、ぼくを遥かに上回る速度で力を会得することができたのだ。
やったな。海。
ああ、ありがとう。達也。おまえのおかげだ――
ぼくらは目を開いた。
いつの間にか、周りは夜になっていた。
自分の力を理解し、会得するのにぼくは四日かかったから、海は半分の期間でここまで来たことになる。
ぼくらは座りっぱなしで軋む体をゆっくり伸ばすと、立ち上がった。
「どう? 成果はあったの?」
「ああ。バッチリだ。中で話すよ」
ぼくはアイにそう言うと、アイの家に入っていった。
海。聞こえるか?
ぼくはアイの家に入ってすぐに、心の中で呟いた。だが、海は全く反応しない。やはり、あの状態まで深く繋がらないとテレパシーのように話をすることまではできないのか。
「達也。お前、俺に向かってテレパシー送った?」
突然、海が話しかけてきた。
「え。分かったの? 瞑想中じゃ無いのに」
「いや……何て話しかけてきたかは分かんないよ。でも、何か考えを送ろうとしてきたのは感じたかな」
海は笑って言う。
何かをやろうとする簡単な意図みたいなものや五感で感じている感覚、そういったものはお互いに伝わるのかもしれない。この力をうまく使えば、敵も対応できないようなコンビネーションも可能になるかもしれないな。
ぼくはそう思った。
アイに促され、テーブルに座ると、アイの宇宙船にストックされているパンのようなものを食べた。小さいのに一つ食べるだけでお腹いっぱいになる。
アイ曰く、ここでの修行によって体の中で種子の融合が進んでいるため、光合成が行われ、あまり腹が空かないのだそうだ。
ぼくらは食事をしながら意見を交わした。二人の間に繋がった感覚やコンビネーションについても話をする。
アイは、ぼくらの話を聞くと、
「じゃあ。明日は実戦ね。二人とも覚悟してね」
と、意味ありげに言った。
「え。実戦て、ぼくらがアイと戦うのか?」
ぼくが訊くと、
「あなたたち二人相手に? それは私の身が持たないわ。まあ、私にプランがあるの。楽しみにしておいて」
アイはそう言って、壁の操縦盤にキーボードのようなものを繋ぐと、何やら作業を始めた。
「達也。大丈夫かな……」
「いや。これは、結構ハードかもな……」
ぼくと海は、アイの背中を見ながら明日の訓練を想像し、顔を見合わせた。
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