第20話 コンビ(1)

 ぼくとアイ、そして海は、アイの家のある山へと向かった。じいちゃんの軽トラで、自動車一台がやっとの未舗装の道を揺られながら進んでいく。


 ぼくと海が荷台に乗り、アイは助手席に乗ってもらった。


 荷台の上から樹々を見ていると、だんだんと植生が変わっていっていることに気づく。途中までは、植樹された杉がほとんどだったのが、広葉樹が多くなっていくのだ。奥へと進むにつれ、その比率は多くなっていった。それも、かなりの巨木が多い。


「結構、山奥なんだな……」

 海は道沿いの巨木を見ながら言った。

「そうなんだ。こんな林道、他に車が通るのかどうかも分かんないくらい、荒れてるよね。生えてる樹もでかいし」


 ぼくと海は、大きな石や凹みによる突き上げに閉口しながら、荷台のへりにつかまっていた。


 一時間も走っただろうか。軽トラはようやく、この前じいちゃんに迎えに来てくれたところに到着した。林道の脇に、身長を超える大きさの岩が一つあり、ここだけ道が大きく膨らむように拡がっている。


「じいちゃん。ありがとう。ここからは歩くよ」

 ぼくはそう言うと、海とアイと軽トラを降りた。

 じいちゃんは何回も切り返しながらUターンさせると、ぼくの横で軽トラを止めた。


「これから修行するんだな……。あのな、達也」

 運転席から右腕を出し、ドアの外側を指先で叩きながらじいちゃんが言った。

「ん。何? じいちゃん」


「忠告というかアドバイスだ……。なあ、達也。お前の人生はかなり特殊な部類に入っちまったが、社会に出ちまえば、どちみち、戦いが待ってるんだ。何を言ってるんだって思うかもしれんが、そんな時にものを言うのは結局気合いなんだぞ」


「うーん。そうなの?」

「その顔、ピンときてないな?」

 じいちゃんがニヤリと笑った。


「まあ。正直……。でも、気合いで乗り切れってこと? まあ、それなら何となく」

「何て言えばいいのかな……」

 じいちゃんは頭を掻いた。


「要はな。誰だって生まれる境遇も場所も違うんだってことなんだ。金持ちだったり、貧乏だったり、お前みたいに親がいなかったりな。人生は不公平なのさ。だがな、そんな境遇の違う人間同士でも一対一で向かい合えば、最後は気合いがものを言うんだってことが言いたかったのさ。


 じいちゃんもばあちゃんも応援してるからよ。海くんも頑張れよ。アイさん、二人をよろしく頼むな。じゃあな!」


 じいちゃんはそう言うと、ぼくの右手をぎゅっと握った。

 ぼくは少し照れくさかったが、じいちゃんの優しい気持ちが嬉しかった。


「じいちゃん。ありがと」

 ぼくはそう言うと、じいちゃんの手を握り返した。


「ふふふ」

 じいちゃんは微笑んで手をひらひらと翻らせると、軽トラをゆっくり発進させる。

 ぼくらは大きく手を振って、じいちゃんの白い軽トラを見送った。


 消えていく軽トラを見送りながら、三人で顔を見合わせる。

「そんじゃ、ま、気合い入れて頑張りますか」

 

 ぼくがそう言うと、二人は笑顔で頷いた。ぼくらはリュックを背負うと、山のさらに奥深くへ足を進めていった。


      *


 林道から山の中へ入っていくと、結構高さのある下生えがびっしりと生えていて、ぼくと海は閉口した。アイが「こっちよ」と言って、少しでも歩きやすいルートを教えてくれる。


 苦労しながら三十分も歩いただろうか。アイ曰く、樹齢千六百年だという檜の大樹の根元にぼくらはたどり着いた。この樹の頂上付近にアイの家はある。


 檜の周囲は、大きな枝振りのせいで日が当たらないからか、植物はあまり生えておらず開けていた。その分、岩や樹肌にはびっしりと苔が生えている。木々のそこかしこからは、野鳥の鳴く声が聞こえてきた。


 ――相変わらず凄い枝振りだな。

 ぼくは、檜の大樹を見上げて思った。


 アイが空中でスイッチを押すような動作をすると、アイの家から円筒形の光が下りてくる。光の中に入ると、そのままエレベーターで上るように、ぼくらは家の入り口まで上がった。


 シュン――

 音を立て、灰色の壁に入り口が開く。


「こりゃ、すごいわ。本当に宇宙人なんだね。アイさん」

 海が家の入り口の前で、空中に浮かびながら驚愕の表情で言った。


 リュックを置くと、アイは家のトイレ、シャワールーム、リビング、そして操縦盤を案内した。ぼくも知らなかったが、操縦盤はリビングの壁に貼り付いていた。表面を指で撫でるように操作すると、いくつかの物理ボタンと操縦桿のようなものが現れた。


「これを操作することで宇宙船に変形するし、宇宙にまで飛んでいくの。でも、勝手にいじっちゃ駄目よ。どこかに飛んでいったら困るから」


 アイはそう言うと、再び操縦盤の表面を指で撫でるように操作し、ボタンと操縦桿をしまった。あれが操縦盤だったんだな。ぼくはそれまで知らなかった事実を聞いて驚いた。


「タツヤ。それに海さん。今日はもう休憩してもいいけど、どうする?」

 アイが腕を組んで訊くと、


「俺はさっそく始めたいよ。その追っ手とやらが、自分の家を襲う可能性もゼロじゃ無いからね。その能力とやらを覚醒させるのは早ければ、早いほどいいと思うんだ」

 海は間髪入れずに答えた。


「そうね。タツヤも付き合う?」

「もちろん。一緒にやれば、ぼくもさらに深く自分の力と繋がれるかもしれない」

 ぼくも頷いた。


 そして、到着した当日、達也もやった座禅の瞑想を二人で一緒に始めることになったのだった。

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