第19話 親友(3)
ぼくは海をアイの家に連れて行く前に、まずは実家に連れて行くことにした。
事情を聞いて駅まで送ってくれたじいちゃんも海のことを心配していたし、ばあちゃんも久しぶりに会えば喜ぶはずだった。
実家に行くのに、じいちゃんに駅まで迎えを頼もうかとも思ったのだが、軽トラの荷台に二人で乗るのも気が引けるなと思い、バスを乗り継いで行くことにした。二人に話すと、何より海が喜んだ。
「何か、知らないうちに無くなった店とかも、たくさんあるな」
海はそう言って、バスから見える街の風景に釘付けになっていた。
「そうそう、あそこに古いゲームマシンがあってさ……あ、あそこの駄菓子屋もよく行ったなあ」
通っていた小学校の前やゲームセンター、駄菓子屋の前を通るときは特にテンションが高い。
「やっぱ。懐かしい?」
「うん。今すぐ下りて、行きたいくらいだな」
海が笑って答えた。
郊外に出ると、ショッピングセンターやファミレスみたいな海の知らない建物もあって、どんな施設で、いつ頃できて、なんて説明を続けていたら、あっという間に市民公園のバス停に着いた。
「一回、下りよう」
ぼくはアイと海の二人を促し、バスを降りると公園の方へ連れて行った。
公園の中の木々は、落葉しているものや紅葉しているものが多く、ぼくらは落ち葉を踏みながら、公園を歩いた。
「ここでアイさんと出会ったのか?」
「ああ。あのときはびっくりしたよ。突然、女の子が倒れてたから。でも、最初に驚いたのは、前の日の晩に大きな流れ星のような、UFOのような謎の物体が空から落ちてきたのを見たことだったんだ。あのときの音や匂いは今すぐにでも思い出すよ。今になって思えば、あれはアイの乗ってきた宇宙船だったんだよね?」
「そっか。あれも見たんだね……。ここで私だけ下りて、宇宙船は自動航行で山の方に着地させたのよ」
アイが言った。
思えば、あの晩、全ては始まったのだ。ぼくは芝生の方を眺めているアイを見た。
「あのときは大変だったわ。私たちアノンダーケ星人の弱点は水切れだから。でも、それで倒れていたら、いきなり探していた王子そのものに助けられたから、本当に驚いたのよ」
「……何だか運命の出会いって感じだな」
海が笑いながら言って、言葉を繋いだ。
「でも、ここでも、よく遊んだよな。街の風景もそうだったけど、ホント懐かしいよ」
「そうだな」
ぼくは頷いた。小学校の頃は、自転車でわざわざやってきて、奥の方にある遊具で遊んだことを覚えている。それまで忘れていたのに、そう言われると、懐かしい気分になってしまう。
ぼくらはしばらく公園にいて、バス停からまたバスに乗ると、実家の方に移動した。バス停から実家まで歩いている間も、海は懐かしそうに辺りの風景をキョロキョロと見回した。
「海くん。元気だったか?」
実家に着くと、じいちゃんがそう言って迎えてくれた。
海もぺこりと頭を下げて「お久しぶりです」と挨拶する。
家に上がると、台所にいたばあちゃんも、
「海くん。本当に久しぶりね」と笑顔で海を迎え入れた。
今度は「ご無沙汰しています。お元気でしたか?」と海が挨拶するのを見て、こいつ結構コミュ力あるなと見直す。
「じいちゃん……。ばあちゃんは今回の件、どこまで知ってるの?」
ぼくはこそこそと、じいちゃんに訊いた。アイと海も聞き耳を立てている。
「馬鹿。何もかも知ってるよ」
じいちゃんが腕組みをして答えた。
「え。何もかもって、あんな荒唐無稽な話をすんなり信じたの?」
「そりゃそうさ。俺が説明したことで全部、納得よ」
「ふうん。じいちゃんさすがだな」
ぼくは心底感心して言った。
昔から、じいちゃん、ばあちゃんの間ってこんな感じなんだよな。すげえよ。じいちゃん。ぼくが声に出さずに、そう思っていると、じいちゃんがこっちを振り返ってニカッと笑った。
「さすが、年の功」
ぼくの小さな呟きを聞き逃さず、じいちゃんが頭を叩く。
「いてえ」ぼくは、大げさに言いながら、アイと海の二人を部屋に招いた。
部屋に入ると、二人に座布団を勧める。
アイは座る前に、僕の両親の写真にアイが気づいた。
「これがタツヤのご両親なのね……?」
そう言いながら、写真立てを手にする。
「うん。そうだよ。玄関にもあるけど、こっちの方が好きなんだよね」
ぼくは両親と一緒に映った写真を見て言った。
「こんな小さなタツヤもかわいいね」
アイが幼い頃のぼくを見て言うと、
「あのさ。聞きたいんだけど」
海が横目でぼくらを見ながら訊いてきた。
「アイさんと達也って、付き合ってる?」
「付き合って……るのかな……」
「かな?」
「いや。何て言うか……」
ぼくは海の突っ込みになんと返答すればいいのか、困ってしまっていた。当然、ぼくはアイのことは好きだし、この前はキスもしたけど……。
「えっと……」
アイが、おずおずと口を開くのを、ぼくはドキドキして見た。
「付き合うってどういう状態か分からないけど、私はタツヤを好きよ。命がけで守ろうと思うくらいに」
ぼくは、心臓を打ち抜かれたような気分だった。
「ぼ、ぼくも好きだ。ごめんアイに先に言わせてしまった」
しばらく無言の間が続いた。それを打ち破ったのはやはり海だった。
「ふう。やっぱ、そうか。いいなあ、達也」
にへらと笑いながら、海がぼくの肩をどやす。
そして、
「でもさ。その引っ込み思案なところはいい加減なおせ」
と言われた。
ぼくは顔を真っ赤にして、海の背中を
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