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それから何度か、私は父の夢の中で母と会った。(もちろん、父が目を覚ます前に私は布団を出ているので、そのことを父は何も知らないし、夢自体も覚えていないようだ)
母は入れっぱなしの洗濯物を鞄の中から出すみたいに、私の心を取りだし、同じ工程を繰り返して、最後にきな粉をふった。
私は黙々とそれらを食べて、身体に納め直した。
そのせいか、だいぶ心が軽くなった。クラスメイトとの関係も日毎に改善していった。心に余裕が生まれると、他人のことがよく見えるようになる。
そんなある日、塾の帰りに父の姿を偶然目にして、その場で足を止めた。
見知らぬ女の人と一緒だった。
咄嗟に物陰に隠れる。鞄を抱きながら、窓際で向かい合わせに座る二人をうかがった。
コーヒーを飲んだり、ケーキをつついたり、その様子で何となくぴんときた。私にもそれくらいはわかる。途端に心がざわつき出した。こんな想いを子供にさせるのはどうなのか、と思った。大人の男は女の人がいないと生きていけないのか、とも思った。
私のことなんてどうでもいい?
そんな被害妄想を掻き立ててみたが、父を嫌いになるというのも、何だか短絡過ぎて子供染みている。……でもどうしよう、そう思いつつも、家路を辿る自分が比較的冷静なことに驚いていた。
もし、夢の中で母に会っていなかったら、きっと、こんな感じで受け止められていなかったと、母に感謝した。
その夜、父は帰ってくるなり、次の土曜日に食事に行こうと私を誘ってきた。問いただしたいことが口から溢れかけたけど、無理やり抑えつけた。
「誰か来るの?」
きっとあの人だと思いつつ、あえてそれだけを訊いてみた。
父は煮え切らない返事をするだけだ。少し追求するとしどろもどろになり、ついには自分の部屋に引っ込んでしまった。
当日、父のあとについて居酒屋の個室に入ると、あの人がいた。
ちとせさん、父はたどたどしく紹介した。
私も緊張していたが、ちとせさんは私の倍は緊張していたようで、笑顔がぎこちなかったり、声が微妙に裏返ったりした。
父はお酒を飲むだけで、いつもようにほとんど話さない。だから、共通の話に辿り着くまで苦労した。
ちとせさんは中高でバスケをしていた。私もバスケ部を引退したばかりだったので、部活のあるある話でなんとか会話をもたせた。
何度か父に意味ありげに視線を向けたけれども、結局、ちとせさんが父の何なのかという説明は、最後までなかった。
それから月一くらいで、三人で食事をするようになった。
ちとせさんはどことなく母に似たところがあった。大皿の料理を取り分ける手つきとか、不意に見せる仕草とか。その存在が重なる度に懐かしさが込み上げた。けれど同時に、母に対する申し訳なさや罪悪感がきりきりと、私の胸を締めつける。
前にもうしろにもいけない。
そんな目に見ない力がちとせさんとの距離をつくり出していた。
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