第18話
教室に入る。
ザワザワとした喧騒が、一瞬だけ静かになった。
そして、
「おはよーさん」
リュークが声をかけてきた。
それで一瞬の静けさは消え、またザワザワと教室が騒がしくなった。
「おはよ」
「で、検査結果はどうだったんだよ?」
少し心配そうに聞いてくる。
たしかに、ほとんどが検査入院とは無縁な生徒達ばかりだから、持病の悪化が懸念される、みたいな理由でクラスメイトが休むのは珍しいのだろう。
「とりあえず、問題なし。
まぁ、正式な検査結果はあとで書類で届くんだけど。
たぶん大丈夫だよ」
「そっか、良かった」
エリーと同じように、リュークはホッとしたようだった。
そして、
「それじゃ、伝言な」
唐突にそんなことを言い出した。
僕は自分の席に向かいながら、聞き返す。
「伝言?」
「?」
エリーも横で首を傾げている。
「あれ?
エレインさんは聞いてないですか?
ツクネに生徒会から呼び出しがあったんですよ」
リュークは僕達2人を見ながら、そう答えた。
「生徒会?」
「そ、生徒会」
生徒会、委員会の頂点であり、取りまとめをしている。
生徒会長は、御三家のひとつヴェリドット家の長女、副会長これまた御三家のひとつクォールスロー家の長男がつとめている。
二人とも二年生で、ここにエリーを入れた三人が次期魔王最有力候補者達だった。
良きライバル同士であり、友人同士でもあった3人は、切磋琢磨してお互いを高めあっていたのだという。
僕がそれを聞いて、内心で平謝りしたのは言うまでもないだろう。
そんな人たちが、僕になんの用だろう。
ちらり、と何気なくエリーを見たらニコニコしていた。
「なにか聞いてるの?」
「え?!いいえ、とくには」
エリーは、そう返してきた。
と、なると……バレた??
もしや、行ったが最後暗殺される、とか??
エリーにはバレたけれど、彼女は僕を殺す気は欠片もないようだ。
最初、忠誠を誓ったのも背後から刺すためかなって考えたほどだった。
違うとわかったのは、ティオさんの授業で魔族にとっての忠誠がいかに重く、大切なものなのかを知ってからだった。
僕の考えは、とても失礼なことだとわかって反省した。
彼女が僕に忠誠を誓ったことは、彼女の実家であるラングレード家にも伝わった。
けれど、娘が決めたことだからと、放任する方向らしい。
ただ、僕がどんな人物なのか一度会いたいから今度食事に来なさい、と手紙がきたのには驚いた。
胃に穴があくかと思うほど、痛くなった。
食事会については、ティオさんが僕の検査入院等について理由を手紙に書いて返信してくれた。
エリーのお父さんは、それに対して丁寧な手紙を再度送ってくれた。
僕の連絡先を知らないのか、それともエリーが父親からの僕宛のメッセージを送るのを拒んでいるのか、それはわからない。
手紙によると、食事会については日を改めてまた誘うことにするという旨が書かれていた。
ついでとばかりに、ただのホームパーティーだからそんなに気負うことはないよ、とも書かれていた。
なんだろう、娘についた悪い虫への牽制なのか、はたまたただ仲のいい友達の顔を見てみたいだけなのか、いまいちわからない。
後者であることを祈るしかない。
さて、エリーには僕が魔王であることがバレた。
けれど、他の人にはバレていない。
リュークはもちろん、他のクラスメイトも知らない。
生徒会長と副会長も知らないはずだ。
「呼び出し、か」
「登校したら、昼休みに生徒会室に来てくれだってさ」
リュークは、おそらく頼まれた通りのことをそのまま僕に伝えた。
そして、昼休み。
僕は学食で昼食を済ませると、生徒会室に向かった。
何故かエリーも着いてきた。
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