第17話

「んー、特に異常なし。

健康体そのものだヨ」


と、医者のお墨付きをもらってしまった。


「正式な検査結果は後日郵送されます」


看護士さんに説明され、僕は精密検査のためこの数日間過ごした病院をあとにした。


「良かったですね、なにもなくて」


一緒に説明を聞いていたティオさんが、病院を出るとそう言ってきた。


「……うん、そう、そうですね」


いいこと、なんだろう。

でも、セカンドオピニオンも検討してみよう。

いやだってさ、怖いじゃん。

意識なかった間暴れまくったとか、女の子蹴り飛ばしたとか。

しかも、その行動が意識をもっておこなってるとか。

二重人格か、ヤバい薬をキメてるとしか思えない。

勿論、魔剣に触れるまでそんなこと無かった。

やっぱり魔剣の呪いかなんかだと思う。

初代魔王は人間だったけど、魔王に至る理由と経緯があった。

歴代の魔王のことはよく知らない。

勉強してる最中だからだ。

でも、僕と比べるとかつて所属していた世界から抜け出したい欲が強い人が魔王に選ばれている気がする。

偏見が入るから、あくまで僕の中での考えだけど。


「それじゃ、次は教会ですね」


ティオさんが車に乗り込みながら言ってくる。


「教会?」


「念の為、呪いが掛けられていないか調べるんです」


考察厨からの指摘を素直に聞いてくれてるらしく、ティオさんはそう説明してくれた。


「……わかりました」


そうして、教会に向かった。

神官に調べてもらったけれど、とくに呪いはかけられていない事がわかった。

では、あの症状はいったいなんなんだろう。

もしも安心と不安を図る天秤があるのなら、いまは釣り合ってる状態だ。


そう、病気でも呪いでもないと一応判明したからだろう。

原因不明なのは変わらないので、やはりセカンドオピニオンも検討しておこう。


そうして学園を休んで検査入院までしたのに、結局はなにもわからずじまいだった。

いや、なにもわからなかった、というのは言い過ぎか。

健康体そのものだとわかったのだから、良しとしよう。


翌日、僕は学園へ登校するために魔王城を出た。

明日まで、牛乳と新聞配達のバイトは休みをとってある。

バス停近くで、エレインさん――エリーが待っていた。

自転車に乗る僕を見つけて、声をかけて来た。


「おはよう、ツクネ」


決闘後、彼女は僕に何故か忠誠を誓った。

そして、王様かなにかのように敬語で接してきたのだが、今まで通りにしてほしいと、僕からお願いしたのだ。

最初こそ渋ったものの、彼女は僕のお願いを聞いてくれた。

そして、これまた決闘以来、この通学路で僕を待っていてくれるようになった。


『大変だろうから、待ってなくて良いよ』


と断ったけれどエリーは自分が好きでやっていることだから、と言ってきた。

本人がそれでいいなら、強く反対できない。

僕も挨拶を返す。


「おはよう、エリー」


ちなみに『エリー』というのはエレインの愛称だ。

僕は彼女の前まで来ると、自転車を停める。


「乗る?」


「えぇ、ありがとう」


自転車の二人乗りは、一緒に登校するなら、と僕から申し出たことだった。

これも、最初は恐れ多いだのなんだのと渋っていたエリーだったけれど、僕がエリーに合わせて自転車を降りて歩こうとしたら、何故か受け入れてくれた。

雑談をしつつ、学園へ向かう。

エリーがこの数日のことを話してくれた。

検査入院に関しては、担任からクラスメイト達へ説明があったらしい。

表向きは、僕の持病の検査ということになった。

エリーには、僕が何故検査入院をすることにしたのか説明してある。

彼女は、あの学園で唯一、僕が十代目魔王に選ばれたことを知っているからだ。

本当は詳細は伝えないつもりだったけれど、検査入院をすると言っただけで彼女はとても狼狽え、心配してくれたのだ。

あまりにも心配しすぎるので、僕は本当のことを話したのだ。

彼女は納得してくれた。

さらに、


『我がラングレード家の始祖が、他ならない初代だから。

私の方からも、色々調べてみるね』


そう申し出てくれた。

僕はその言葉に甘えることにした。


「それで、その検査入院の方はどうだった?」


恐る恐る、エリーは聞いてくる

僕は答えた。


「とくに異常はなし」


僕の返答に、エリーがホッとする気配が伝わってきた。

僕も彼女に訊ねた。


「そういえば、初代に関してはなにかわかった?」


「ううん、ごめんね。

まだ調べてる最中なの。

アルスウェイン様は、なにか言ってた?」


アルスウェイン、僕の里親であるお婆さんだ。

と言っても、僕の面倒はほとんどティオさんが見ているので、今では時折清掃バイトの時に顔を合わせるくらいだ。

お婆さんは、初代魔王の右腕的存在で、1番近くで初代魔王を支えていた存在だ。


「今日、学園が終わったら聞きに行く。

検査入院で何も出なかったからね」


ある意味、検査入院で原因がわかったなら良かったけれど、そうならなかった。

教会まで行って調べたのに、こちらも異常なしと判断された。

そうなって来ると、やはり魔剣になにかあるのだろう。


「そっか。

私も付き添いたいけれど、委員会があるからなぁ」


彼女は学園の秩序と風紀を守る、風紀委員だ。


「大丈夫大丈夫、子供じゃないんだから。

そんな付き添いなんて大袈裟だよ」


やがて、校門が見えてきた。

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