第13話

僕は、床に落ちた包帯を拾って巻き直した。

そして、ビクビクとグラウンドに向かう。

エレインさんが、僕のことを言いふらしているんじゃないかと思ったのだ。

殺されたくない、そして混乱を避けるために隠していたことがバレたのだ。


そう考えてしまうのは仕方ないだろう。


けれど僕の心配をよそに、その後受けた授業は普通だった。

誰にも問いただされなかったし、包帯をとって見せろとも言われなかった。

エレインさんにどんな考えがあるかはわからない。

でも、とりあえず今は言わないでいてくれるようだった。

そうして、その日はいつも通りだった。


いつも通りに学園での授業を終え。

いつも通りに自転車でバイト先へ。

いつも通りにバイトを終えて帰宅。


もしかしたら決闘云々は、僕の聞き間違いかなにかだったのかもしれない。

などと、甘い幻想にすがろうとしたけれど、そうは問屋が卸さなかった。

魔王城へ戻ると、ティオさんから質問攻めにあった。

曰く、ラングレード家から正式な決闘の申し込みが来たらしい。

それも、この時代に手紙で届いたとのことだ。

僕は現在、魔王城に住み込みとなっているので表向きの家である、社宅のポストに入っていたとの事だ。

ちゃんと封蝋をした手紙なんてドラマか映画でしか見たこと無かったから、それだけでも驚きだ。

しかも、ちゃんと家紋が押してあった。

SNSに上げたかったけれど、我慢した。


「バレた感じでした?」


さすがに家族には僕が魔王に選ばれたんだろうな、と言ったのかと思って確認した。


「いいえ、そう言った内容ではなかったですね」


基本、手紙などは事前にティオさんが検閲してくれることになっている。

危険物等が入って無いかの確認のためだ。


「本当にただの決闘の申し込みでした。

ただ、少し戸惑っているような印象は文面から受けましたけど」


手紙はラングレード家の当主、つまりはエレインさんの父親が出したものだ。

他から決闘の申し込みはあるものの、娘であるエレインさんから申し込むと言うのは珍しいことらしかった。


「しかも、ツクネ様はアルスウェイン家の遠縁ということになっていますしね。

戦女神と讃えられたお祖母様が、わざわざ引き取ったということで余計に注目を集めているのかと思われます」


「……へ?」


僕の里親となったお婆さんは、若い頃魔王の横に立ってともに大暴れして、勇者一行を震え上がらせていたらしい。

その功績から英雄、女傑、そして戦女神と讃えられたのだという。


腰痛で僕に掃除を手伝ってくれって頼んでた、あのお婆さんが?!?!


と驚きはかくせなかった。


「僕、そんなすごい人に引き取られたんだ……」


「歴史の授業で説明したはずですけど」


呆れつつティオさんは言うと、ちらりと僕が少しずつ買いためている映画のディスクが並んだ棚を見た。


「それに、ツクネ様が好んで鑑賞されている作品にも、初代様を扱った作品がありますよね?

そこにも、登場人物の一人として出ていますよ」


ごめんなさい。

積みディスクで、まだ観てないんです。

ずっと気になっていて、本当は映画館で観たかったものを、少しずつ少しずつ買い集めているのだ。


あとで観よう。

でも、中々時間が取れないのが難点なのだ。


「映画だけではなく、この前バイト帰りに大量に買ってこられた小説の中にも初代様を扱った作品がありましたよ。

それにも、出てたはずです」


ごめんなさい、それ積み本なんです。

まだ読んでないんです。

ちょっとずつ消化するんで許してください。


それはともかく。

エレインさん、なんで僕が魔王に選ばれたってバラしてないんだろう。


気にはなったけれど、それ以上に厄介なこととなってしまった。

決闘を拒否した場合、臆病者と後ろ指を指されかねないらしい。

さらに、それ以上に僕を悩ませたのは決闘の日にちだった。

日にちは1週間後の放課後とのことだった。

でも、その日含めて1ヶ月先まで、僕の予定はバイトのシフトで埋まっているのだ。

あとは魔王城での勉強もある。


……各バイト先の社員さんに相談して、さらに各バイト先のパートさんとバイト仲間に頭下げてシフトを調整するしかない。

僕は鞄に突っ込んであるシフト表と、スケジュール帳を取り出してため息を吐いた。

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