第10話
拝啓 誠一君へ
誠一君、お久しぶりです。と言っても私はさっき会ってるし、なんなら今でも貴方の隣でこれを書いているんだけど、多分、誠一君がこれを見る頃にはお久しぶりな気がします。なんとなくですけど。
さて、早速本題に入ろうと思います。何故こうやって私が手紙を書いているのか、そして何よりも、私がいきなり消えたこと、誠一君は今すごく知りたがっていると思います。だからもう率直に書きます。ズババーン! と、率直に書きます。
私が君の前から消えた理由は、もう誠一君が必要無くなったからです。
…………どういうことか分かりますか? 多分、驚いてると思うんですけど。きっと、予想も付かないですよね。私、完璧に隠せたと思うので。いいですよ、説明します。
実は私、誠一君に1つ嘘を吐いていました。
私は秋の精霊なんかじゃありません。
なんとなく、精霊って言ってたら人畜無害な感じがするじゃないですか。だから私達はそれを名乗るんですけど、実は違うんです。
私は、秋の妖怪です。秋の神様見習い、なんて言っても差し支えないかもしれないですけど。とにかく、私は秋の精霊なんかじゃないんです。
妖怪って、大変なんですよ今。信仰――畏怖と言った方が近いかもしれないですね――が集められなくて生き残るのが大変なんです。電気が生み出されてからどんどんと畏怖が集められなくなって、最近はコンピューターが発達してちょっと回復したり、人間社会に溶け込むのが簡単になったりしたんですけど(妖怪ってアルゴリズムと似てる面があるからって知り合いの天狗とかに聞いたんですけど、私にはよく分かりませんでした)、それでも大変なんです。
誠一君。ここまで言えば分かりますかね。私達がどうやって現代で生き残ってるか。私達がどうやって人々から畏怖を集めているか。二口女とか、雪女とか……あ、サキュバスとかの方が分かりやすいですよね多分。
ね、誠一君。
きっと私のこと、忘れられないんじゃないですか?
忘れたくても、忘れられないんじゃないですか?
私達は、それを食べて生きてるんです。
私達は、それを食べて大人になるんです。
秋の妖怪――私達は。人間の寂しいという心に付け込むことで畏怖を貰いながら種を植え付け、そしていきなり去ることで忘れらないようにして種から花を咲かせる妖怪なんです。そして、その人の一生を食いつぶしてしまうんです。
ごめんなさい。今まで黙ってて。そしてありがとうございます。私の栄養になってくれて。
出来る事なら誠一君。私のことなんて早く忘れた方が良いですよ。
まぁ、やりたくても出来ないと思いますけど。
それでは、さようなら。
敬具
檜扇より
その手紙は見つけてはいけなかったはずのもので、もっと言えば書いてはいけなかったはずのもので。
「…………こんなもの」
水玉模様の上に書かれた字を――。
水玉模様の下で滲んでいる字さえ見つけなければ、よかったはずのものなんだ。
山鳥の尾の様に秋の夜は長いと言う。
人を想いながら一人で寝る秋の夜は、山鳥の尾の様に長いと言う。
そんな夜が長すぎて僕は。
気づけば君を探しに飛び出していた。
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